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H.A. Advisors 代表 阿部 博秀

短期連載 コロナ禍危機からの急回復は目前。 そのためのキックスタートの準備を

2021年07月06日(火)
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(リード)
コロナ禍で厳しい状況が続く日本のホテル業界だが、H.A. Advisorsの代表 阿部 博秀氏は、ワクチン接種の拡大で急回復のきざしを見せる世界の旅行市場状況を見ても、日本の旅行市場の回復は遠くないと語る。本稿では阿部氏に、世界の動向から見える日本の旅行市場の未来についてご寄稿をいただいた。
 
 
Profile
Hirohide Abe

1985年に東京大学を卒業後、東京ガス株式会社に入社。その後コーネル大学ホテル経営大学院卒業後、パーク ハイアット 東京マーケティング部長、宿泊部長を経て、ハイアットインターナショナル本社でグローバルマーケティングを統括。2006年に日本に帰国後、日本ハイアット代表として新規ホテル開発、国内ホテルの運営サポート。その後、香港アジア・パシフィックの副社長として約150ホテルのレベニューマネジメントを担当。20年5月ハイアット退社後、H.A. Advisors, Limitedを設立。H.A. Advisorsとしてハイアットと日本・ミクロネシアにおける新規ホテルプロジェクトの契約サポート業務も受注。
 

H.A. Advisors 代表 阿部 博秀氏
H.A. Advisors 代表 阿部 博秀氏

トラベルバブルが始まる。
一方で日本は周回遅れ
 
本原稿を書いている6月の段階で、日本では10都道府県が緊急事態宣言下にあり、インド株などの異変種への対応の一方、ワクチン接種はようやく加速化している状況です。一方で、世界に目を向けるとコロナ禍からの出口を探る国も出てきました。豪州、中国は昨年からの厳しいロックダウンにより新規感染をほぼゼロにし、経済を順調に再開しています。米国、英国も今年1月10日頃ワクチンの人口接種率が10%未満の時に感染者数がピークに達し、3月10日前後接種率約20%から35%になるまでの2カ月間に急速に新規感染を収束させました(図1、2)。 世界経済予測も3月に大幅に上方修正され、世界のG D Pは四半期ベースで年末までに2019年レベルにV字回復する見込みです(図3)。
 
ホテルのパフォーマンスも国内需要が大きい米国、豪州、中国3カ国は宿泊稼働率を6割の水準まで急回復させています。さらにこの夏からは2国間のトラベルバブル、欧州諸国の米国、英国からの旅行者受入が始まろうとしています。一方で日本の宿泊、外食産業は周回遅れ、トラベルバブルにも完全に乗り遅れています。ワクチンの人口接種率は6月初めでいまだ10%の状況ではありますが、米国、英国のワクチン接種と感染収束の傾向をみるとこれから2カ月間が正念場、感染収束の急回復を期待しています。
 
ただ回復の遅れを悲観していても仕方がありません、ピンチはチャンスです。感染収束を見通して、オリンピック直後の8月から宿泊、外食ビジネスのロケットスタートをきるのです。

(1)Pent-up demand(繰越需要)をテコにまず国内レジャートラベル、外食、ウェディング、ソーシャルパーティーを盛り上げ、

(2)国内ビジネストラベルも含めた平日需要にフォーカスしたインセンティブ、プロモーションを政府が後押し、

(3)欧米などワクチン先進国とのトラベルバブルを秋にはスタートさせるのです。


 

図1.各国の100万人あたりの新規感染者数の推移
図1.各国の100万人あたりの新規感染者数の推移

図2.各国の1回以上のワクチン接種者の割合
図2.各国の1回以上のワクチン接種者の割合

図3.2019年の第4四半期を100とした際の世界のGDPの推移と予測
図3.2019年の第4四半期を100とした際の世界のGDPの推移と予測


米国、豪州、中国の宿泊マーケットの急回復
 
STRによると米国のホテルは2021年4月時点で57.5%の稼働率まで回復しています(図4)。また中国、豪州も順調に回復しています(図5)。中国は昨年夏にいち早く新規感染を収束させ、海南島などのリゾート、上海近郊のホテル、成都など西部都市から回復が始まりました。さらに今年3月の全国人民代表大会の閉幕後は北京を含め経済活動を本格化させ、全国的に高い宿泊稼働率を保っています。多くの人がマスクをしていますが義務ではなくなっています。豪州は昨年の厳しいロックダウンが功を奏し今年初めから多くの都市で新規感染はゼロ、4月からは公共交通機関以外でのマスクの着用は不要になりほぼ通常の日常生活に戻っています。米国の回復はフロリダなどのリゾートからスタートし、それがニューヨーク、シカゴなどの大都市に広がり、ホテル業界では人手不足が深刻化しています。
 
 

図4.日本と米国の稼働率(出典:STR)
図4.日本と米国の稼働率(出典:STR)

図5.Skiftによる宿泊需要の回復を示す指数(出典:Skift)
図5.Skiftによる宿泊需要の回復を示す指数(出典:Skift)


米国、豪州、中国の3カ国の回復状況をみるといくつかの特徴があります。
 
① 外食がまず初めに回復する。 

中国で高級レストランも含め外食が昨年夏に急回復、今も外食ブームが続いています。豪州では2㎡に1人までという席数制限もあり、増加する需要に対応するため2時間制を取り入れるレストランも出てきています。米国では5月19日からレストランにおけるソーシャルディスタンスが完全に撤廃されました。米国で最も大きなシェアを持つレストラン予約サイト「OpenTable」によると、外食はすでに2019年の8割を超える水準まで回復しているとのことです。
 
 

図6.「OpenTable」提供による、2020年3月を基準とした際のレストラン予約の回復率
図6.「OpenTable」提供による、2020年3月を基準とした際のレストラン予約の回復率


② 高級ホテルも含めた国内レジャーの回復、リベンジトラベル? 

コロナ禍が始まった当初は高級ホテルセグメントRevPARの落ち込みがビジネスホテルに比較して大きいものでした。しかしながらコロナ危機からの脱出期においてはADRの落ち込みが少ないなど、高級ホテルセグメントの回復も堅調です。衛生面で安心感のあるグローバルホテルブランドの人気、海外旅行ができないため国内の高級リゾートに宿泊、都市ホテルでのステイケーションなどはまさにリベンジトラベルと言えます。日本でもコロナ禍の、特にGo To トラベルの時期は沖縄の高級ホテルブランド、箱根などのリゾートの高級旅館、オーベルジュタイプのホテルが極めて好調でした。
 

③ ウェディング、ソーシャルパーティーが回復、Pent up demand(繰越需要) 

中国のホテルウェディングはすでに2019年のレベルを超えているところもあり、米国でもウェディングが急回復しています。あるホテルチェーンでは米国のウェディングの予約ペースが30%アップ、ハイブリッドのウェディングも人気、リモートの場所で同じ料理を出すことで出席者の一体感を出すなど工夫をしています。家族再会のための旅行、集まり、同窓会などのパーティー需要も増えています。
これはいわゆるPent-up demand(繰越需要)の一つで、コロナ禍でのロックダウンでできなかった消費が一気に噴き出しているのです。Pent-up demandを支えるのが各国の非常に高い個人超過貯蓄です(図7)。われわれ宿泊、外食産業はコロナ禍で甚大な被害を受けていますのでなかなか実感できないのですが、世界主要国の株価は軒並みコロナ危機前を超え、I T、半導体など好調な業種もありお金が貯まっているのです。
 

図7.各国の個人釣果貯蓄のGDP比
図7.各国の個人釣果貯蓄のGDP比

 
④ Short-term rental 短期賃貸マーケットの急成長 

米国、英国などで特徴的なのはShort Term Rental(短期賃貸滞在)、Vacation Rentalが伸びたことです。これらは民泊での1週間以上の家族での滞在、ワーケーションも含めたマーケットです。リモートワークが進み、公共の場での接触機会が少ないことも人気のある理由です。Airbnbが上場を果たしVrboという会社が急成長、マリオットもこのセグメントに参入しています。
 
 

図8.ロンドンではホテルよりも短期賃貸滞在の稼働率が好調(出典:STR)
図8.ロンドンではホテルよりも短期賃貸滞在の稼働率が好調(出典:STR)

 ⑤ 国内ビジネスF I T、MICEも秋には回復 

米国ではビジネストラベルの回復はレジャートラベルに半年から一年遅れといったペースでしょうか。デルタ航空のCEOは予約ペースをみると米国では完全に回復したレジャートラベルに加え、この9月にはビジネストラベルブームがおきるとコメントしました(6月3日ロイター)。実際に米国での9月のグループの予約は2019年の24%減のレベルにまで回復しています(図9)。中国では国内企業のFIT、MICEとも完全に回復、豪州でも国内企業は出張規制を撤廃しビジネス需要が回復してきています。まだ従業員に対して出張規制をしているアップルなどのグローバルカンパニーでも来年の法人料金RFP(Request for Proposal)が始まっており、出張規制の解除は時間の問題でしょう。
今年4月の上海のオートショーは36万平米のスペースに10日間で81万人が参加し無事閉幕しました(クラスターの発生は報道されていません)。これは世界のMICE業界にとっても朗報です。
 

図9.米国のグループ予約の割合(2019年比)
図9.米国のグループ予約の割合(2019年比)


米国、豪州、中国のさらなる回復はいつ?
 
私はフライト予約情報を一元管理しているエアライン業界の動きをいつも注目しています。IATA(International Air Transport Associationは今年下期には米国と中国の国内需要は2019年の水準を回復、北米とヨーロッパ間も50%の水準まで回復するとみています(図10)。世界全体でも2023年に2019年のレベルを上回る(105%)と予測しています(図11)。
 
 

図10.IATAによる各国のフライト需要の回復率予測
図10.IATAによる各国のフライト需要の回復率予測

図11.IATAによる世界の航空旅客数の予測
図11.IATAによる世界の航空旅客数の予測

 
STRは、米国では2023年に需要ベースで2019年を超え、RevPARベースで2019年の91.5%まで回復するとみています(図12)。
 
 

図12.米国の宿泊パフォーマンス回復予測(出典:STR)
図12.米国の宿泊パフォーマンス回復予測(出典:STR)

 
私はRevPARベースで中国では2022年、豪州、米国では2023年に2019年レベルもしくはそれにかなり近いところまで回復するのではないかとみています。
 
 
日本マーケットの回復について
 
日本での宿泊、外食ビジネスの回復は米国、豪州、中国から半年遅れのペース、年末までにまず60%の宿泊稼働率を目指すべきです。予測にあたって幾つかの前提条件、要因があります。
 
1.日本でもワクチン接種率が加速化し米国の3ヶ月遅れくらいの8月から9月には人口摂取率が40%から50%に達する。

2.Pent-up demand(繰越需要)は厳しいロックダウンをした3か国ほど大きくはないにしても、その効果をある程度見込める。

3.トラベルバブルが欧米で今夏にスタートし、日本でも今秋から来年初めにかけてスタートする、そのために政府が準備をする。

4.景気回復が2022年に本格化する。日本総研は2022年7-9月期GDPは2019年7-9月期水準に回復すると予測しています(日本総研『Research Eye』2021年5月19日)。 

以上はポジティブな要因ですが一方でネガティブな要因もあります。
 
5. インド株ほかの変異種の拡大、ワクチンの有効性などのコロナ禍に関するリスクは引き続きあるでしょう。

6.日本の宿泊稼働率は2019年に80%を超える世界的にも非常に高い水準であったためそこに完全に戻るのは時間がかかります(逆に言えば2019年の90-95%くらいへの回復をまずは目指すべきとも考えます)。

7.日本の宿泊稼働の回復は昨年を通して米国に2、3カ月遅れる傾向がありました。これはロックダウンなど厳しい措置がないにもかかわらず、企業、個人とも出張、旅行に対する自主的な規制、抑制があるのではないかと考えます。実際に他国に比べ日本人の旅行に対する意欲が明らかに低い傾向があります(図13)。私は昨年からのコロナ禍を通していくつかの調査で将来に対する日本人の悲観的な性向、リスクを避ける傾向には大きな懸念を持っていました。それがゆえに他の先進国と違い旅行、消費の回復のために政府の強いインセンティブが必要であると考えるのです。 

 

図13.2020年3月時点での、各国の向こう12カ月の海外旅行見込み
図13.2020年3月時点での、各国の向こう12カ月の海外旅行見込み

 
まずは国内レジャー、外食についてはオリンピック後からの急速な回復、年末から2022年にかけてソーシャルパーティー、国内ビジネス、トラベルバブル、そして2023年にはインバウンドFITの完全な回復を目指すべきです。ウェディングについてはPent-up demandで今年後半から短期的な需要回復はありますが、少子化、婚礼の少人数化のトレンド、また再婚マーケット、ハイブリッドウェディングなどマーケットの多様化も進むでしょう。
 
 

図14.今後のホスピタリティー産業の回復時期予測
図14.今後のホスピタリティー産業の回復時期予測

 
以上が回復への見方ですが、いくつか考えておきたいポイントがあります。
 
① 変化するビジネストラベルに対応する
 オンラインミーティング、リモートワークの普及により特にホワイトカラーの国内、海外の出張が構造的に減るとも言われています。私は減るというより変化するとみています。その理由として1)米国、豪州、中国における国内ビジネストラベルの急回復、2)Face to Face ミーティングの重要性の再認識、3)オフィスワークに完全戻った中国とリモートワークの進む米国などの回復の多様化、4)リモートワークによりホテルでの会議、研修需要の増加の可能性、5)ホテルでのワーケーション、短期滞在需要などがあります。

② Go toトラベルでない旅行促進策を
 
日本人、企業の自主規制、慎重さを考えると感染が収束した段階で旅行促進策が必須です。1)Pent-up demandによるレジャー需要の回復はあるにしても、それでカバーされないビジネストラベル、特に平日稼働をあげる施策を行う。対象エリア、実施時期を柔軟に対応できる都道府県別のインセンティブ、プロモーションにする、2)ワクチン接種、感染収束の進む欧米諸国を中心にトラベルバブルを始める、3)中国、米国などのMICE先行国事例も研究し、MICEの国内再開に向けてのスタンダード作り、環境整備を進める、などです。

③ 変化する中国、アジアマーケットに対応する
 コロナ禍が収束すればインバウンドは回復するというコメントをよく聞くのですが私としては懸念があります。政府間レベルの外交関係が旅行者心理に強く影響を及ぼすのを中国の友人と話していて感じています。韓国からのインバウンドもそうですがウェルカムでない国への旅行は敬遠するものです。さらに中国では従来少なかったスキー場の開発が進み、リゾート施設のレベルは非常に高く、日本食、国産電化製品のクオリティーも高くなってきています。日本に来る必要性も減っているのです。また中国も含めたアジア諸国の中産階級の急速な富裕化もあり、日本のハコモノ的な宿泊施設には満足しなくなってくるでしょう。日本には素晴らしい観光資源があるとあぐらをかいていると国際間の観光需要獲得競争に敗れていきます。施設の高度化、品質の向上、リノベーションに対する政府の支援も必要です。

④ 今こそ観光人材を育成する
 
コロナ禍で宿泊、外食業界を離れていった人材も多くいて、短期的な人手不足も出てきます。中長期的には4%と高い成長が見込める国際観光、また良質な国内観光を推進するためにも観光人材の育成は急務です。そのために、宿泊産業のマークアップ率を高め従業員への報酬をしっかりあげていくのです。コロナ禍からの回復期には適切なレベニューマネジメントで価格を上げ、人材、サービスに投資をしていく。先進国でのインフレ予測、Pent-up demandによる個人超過貯蓄もあります。日本は安いから旅行するということではなく、バリューを高い価格で売っていくのです。今後人材の主体となるミレニアル世代の人材を獲得するには、報酬面だけでなく、企業としてのパーパス(Purpose)を明確にし、共感を持ってもらい、S D Gs を進めるのです。 
次号ではコロナ危機脱出のためのレベニューストラテジーについてお話をさせていただければと思います。最後にこの2月に香港から帰国した後宿泊、外食に関わる多くの優れた企業経営者、プロフェッショナル、メディアの方にお話を伺う機会をえました。皆様の危機に際してのAgility(俊敏さ)とForeword looking (先を見る力)には大変勇気づけられました。誌面をお借りして御礼申し上げます。
 
 

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