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第7回 F&Bコントロール ~ホテル業の原価管理に於ける一つのビジネスモデル構築を目的として~ 

第7 回『経営とのかかわり』(最終回)

【月刊HOTERES 2015年11月号】
2015年11月26日(木)
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 ここで少し売上予算について触れますが、来期増収をもくろむ場合その販売計画―商品企画、メニュー改定、値上げ値下げなど、どこまで具体的にそれぞれの数字をもって計画されるかということが重要になります。
 
 例として、コーヒーショップのコーヒー紅茶類を一律10%値上げするという場合、それによって客単価はいくら押し上げられるか、来客数に影響はないか、全体としていくらの増収を想定するか。または宴会の営業施策として顧客からの要望が高い和食料理を前面に押し出し、和洋折衷の立食という商品を新たに企画し販売強化、それによる増収見込みはいくらかなどとすると、前者のコーヒー紅茶類の値上げは仕入れ値が変わらず、またそれによって来客数が減少しないとするのであれば原価率は下がり、それを具体的に予算原価率に反映させることができます。後者の宴会の和食料理販促は増収を見込められるものの、もともと和食の料理原価率が高いため、宴会全体の料理原価率としては高くなる可能性があり、その販売目標額と構成比の変化をもって原価率予算に組み込むこともあります。
 
 このように原価はFB 売上と構造的に一体化したものであり、従って売上予算が単なる目標としてではなく、実行可能予算として策定されていないと実際に新年度が始まり、売り上げの予算と実績が乖離して来るにしたがって原価予算とのバランスが崩れ、結果として原価予算も達成できないということもあり得ます。
 
 限られた日数の中で具体性のある売上予算をまとめ上げることは大変な作業ですが、安易にではないにしても当期実績比○%アップというだけでは中身が見えず原価率影響度を測ることはできません。予算の根拠となる販売計画、商品構成の大きな変更などがある程度明確であることが必要です。具体性のある数字をもとにした原価予算であれば、かりに売り上げが予算通り推移しない場合でもまだ原価をコントロールする手段を考えることができます。
 
 ここで利益についての考え方として、売り上げに対して原価率を指定するという形が一般的であり基準としやすいとしてきましたが、利益率ではなく粗利益額の増加を目的とするのであれば原価率は上がっても、もしくは上げても良いという考え方もあります。
 
 例えば現在の売り上げが1000 万円、実際原価率が30%したがって粗利が700 万円という状況から値上げ、イベントの企画などにより10%の増収、1100 万円の売り上げを見込むという場合、原価率を一気に30%から35%に引き上げて設定しても粗利は715 万円となり、利益が減少することなく多少なりとも増加します。
 
 これは極端な例であり、原価率を一気に5%も上げるということはありませんが、利益を確保するか増やすということを目的にするのであれば原価率ばかりにこだわる必要はないとも言えます。
 
 また別の言い方をすると、増収を確実なものにするには、それなりに原価もかけなければならないということに通じます。原価管理は同時に品質管理という側面も持ちます。
 
 ただし粗利益額を優先し、あえて原価率を高く設定するということは、やはりその源となる増収案の計画・内容がいかに実効性のあるものであるか十分に検討されなければなりません。
 
 ここまで売上予算と原価予算の関係について述べてきましたが、それでは実際に原価率予算をどのように設定するかについて説明します。
 
 通常、売上予算は販売部門各アウトレット単位で立てられますが、原価は製造部門でコントロールされるため、原価率予算もまずは製造部門各KT・SB 単位で策定されなければなりません。そのためこの売上予算を製造部門に展開し、各KT・SB の売上予算として組み換えます。
 
 ここであらためて製造部門と販売部門を分けることの意味について説明しますと、システムを構築するにあたっての基本設計および設計思想として飲食材の原価は製造部門に直課し、そこで製造・商品化された上で販売部門にサプライされるという考え方に基づいています。これは調理・料飲など現場の組織とその実務、原価の流れに沿ったものであり、原価管理を有効に機能させることを目的にしているためです。

 図1 は料理という商品を対象に製造部門と販売部門の関係を表したものですが、販売された後の売上高と売上原価は本来販売部門単位で計上されますが、同時に製造部門でも計上され、売上高と売上原価それぞれの総和は同じであるということを表しています。
 
 売上予算の組み換えについては、各アウトレットから見たKT 別構成比の実績を基に予算金額を各KT に展開し、この割り振られた金額をKT 単位に集計することによって製造部門の売上予算として組み換えます。
 
 ここまでは構成比の直近一年間実績をベースとしますが、来期の販売計画として大幅なメニュー改定、イベントの企画、宴会他で和洋中メニューのバランス変更などKT別構成比に影響すると考えられる場合はそれを数字で予測し、この段階で構成比に反映させなければなりません。販売計画それぞれにある程度具体的な数字が必要であることの理由です。
 
 次に製造部門各KT 単位の予算原価率を設定して行きます。ここでは細かい試算の手順は省略しますが、各KTのカテゴリー別原価基準をベースにして今期および現状の原価・売上分析、今後の原材料価格の動きなど仕入れに関する情報、それに伴う売値・レシピの変更の検討、さらに売上予測などあらゆる情報が必要になります。
 
 原価率の設定はFBC が一方的に決めるのではなく、トップマネジメントから要請される数値目標から各KT に割り当てる原価率予算を試算し、それをたたき台とした上で各料理長と共に検討して行くのが望ましいと考えられます。何と言っても食材原価を直接的にコントロールするのは調理部門であり、現場での扱い方いかんによってコストは大きく左右されます。
 
 ただしFBC の客観的な視点として、当該KT の体制と料理長以下スタッフの原価意識がどこまで醸成されているかも設定する上での判断材料になります。

 このようにして製造部門各KT の予算原価率を策定し、次に売上予算組み換えの基となったKT 別構成比を使用して販売部門の原価率予算に割り当てます。(図2)
 
 図表が示す通り販売部門と製造部門の売上予算合計と原価予算合計は整合性がとれています。
 
 飲料の原価率予算について、飲料は材料名がメニュー名になり、その仕入れ値がそのまま原価になるため、原価率の設定について、それほど複雑さはなく比較的 簡単であると思われがちですが、むしろ調整が利かないだけに分析と予測、コストコントロールに緻密さが要求されます。
 
 一つの側面しか見ずに分析したり、考慮すべき点を見落として予測するなどして設定すると、日を追うごとに実際原価率との間に差異が拡がり、途中で修正ができなくなることもあります。
 
 飲料の場合 予算原価率の設定にあたって、まずは過去および現在の実績データの徹底した検証が基になります。カテゴリー別実際原価率とその内容 ― 材料一つ一つの入出庫・振替のミス、売り上げの計上ミス、棚卸しの再チェックなど根気と手間がかかりますが、これは原価差異分析そのものでもあります。
 
 システム化によってカテゴリー別実際原価率を出すこともできますが、その原価率が適正であるかどうかの判断は経験値によるもので、経験の浅い担当者には判断がつきかねます。むしろ飲料のコストコントロールにこそFB コントローラーの経験とスキルが直接 反映するとも言えます。
 
 飲料の原価率予算を下げるという場合、仕入価格の値下げ交渉は当然のこととして、基本的には二つの方法しかありません。一つは商品の売値と商品構成を変えることであり、もう一つはロスを減らすということになります。
 
 ただし売値については競争力という点で他社との比較が必要ですし、商品構成についても原価率ばかりにとらわれず、粗利益の増加を重要視しなければなりません。
 
 またロスについては、アウトレットごとに比較すると同じ商品構成、同じ売価であっても実際原価率が違ってきます。これはどちらかのアウトレットのロスが多いか少ないかを表しています。これが継続している場合、その原因を突き詰めて行くと構造的、人為的な要因によることもあり、一気に解消することはないというのも事実です。 従って原価率予算を策定する際には、このロスをないものとして設定するのではなく、そのアウトレットの特性を見て業務フローの改善、指導などもFB コントロールの職務の一つです。
 
*最後に
 FB コントロールという職種はどのホテルにもあるというわけではなく、経理部の一部であったり、購買部の派生的部署であったりします。従ってその業務内容も経理寄りであったり、仕入れ管理と棚卸しが主であるなど千差万別です。
 
 宿泊、料飲、調理などほかの部署では、ホテルによって多少の違いはあったとしても基本的な業務については大きな差異はありません。ところがFB コントロールについてはその業務内容について定型というものがありません。
 
 極端なことを言えば、購入金額と棚卸資産が分かれば全体としての原価は出ますし、それを売り上げで割れば原価率も出ます。結果だけを求めるのであればそれで構いませんが、原価をコントロールするとなるとさまざまな要件が必要になってきます。
 
 今回の連載はFB コントロールに関する一考察として、私の視点と考え方を述べたものであり、ホテル業の原価管理に一つのビジネスモデルを構築したいという願いとその一助になればという思いで寄稿いたしました。

望月良雄
EL.F&B コントロールオフィスYoshio Mochizuki
89 年㈱ロイヤルパークホテル入社。開業時よりF&B コントロール課に勤務。20 年以上に渡りFB コントロール業務に従事し、業界で初めての購買とFB コントロールの一体化したシステムの開発に携わる。元㈱ロイヤルパークホテル取締役総務部長。現在はFBC に関わるコンサルティング業務を中心に活動する。

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