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新連載 新連載「地域食材を探る」第一弾  菊乃井 代表取締役・総料理長  村田吉弘氏

生産者に学び、食材を知り尽くさなければ本当においしい料理を作ることはできない

【月刊HOTERES 2017年08月号】
2017年08月11日(金)
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日本料理アカデミーが編纂する、日本料理大全「プロローグ」と第一巻「だしとうま味」第二巻「向板I」が完成している

 
世界に貧困が広がる今だからこそ
新たな食材を作っていく努力も
 
 一方で、気候変動や政情不安が続き、世界に貧困が広がる現代だからこそ、私たち料理人が新たな食材を作っていく必要もあると感じています。例えば、乳牛であるジャージー牛の雄牛は、これまで「価値がない」と多くが処分されてきました。しかしこれを見直し、おいしく食べるための活動もスタートしています。30 年ほど前には、京野菜の品種が少なくなってしまっていたので、「昔ながらの濃い味わいの京野菜を復活させたい」と、シェフ仲間で話し合って行動を起こしたこともありました。伝統野菜の種子を保存している農家の方々に協力を仰ぎ、自家消費のために少量だけ作っていた品種を「形が悪くても全部引き取るから作って欲しい」とお願いしたんです。それが評判を呼び、今では生産量も増え、市場に出回るようになっています。
 
 
自然の理である“ 地産地消” が基本
信頼を寄せる生産者を敬い、大切に
 
今注目されている、または慣れ親しんだ食材はございますか。
 
 これまで全国へ出向き、食材と生産者を探し尽くして来ました。現在、日本でも指折りと言われるシェフたちと日本料理のPR のために進めているプロジェクトに参加しているので、その場でも地域食材の情報交換を積極的に行ない、試食をしたり、これはと思ったら、産地に実際に行ってみることもあります。ただ基本は、1 日で行って帰れるくらいの距離で生産された食材を食べることが人間は自然だと思っています。そのほうが流通にお金もかかりませんし、鮮度も保てます。地産地消は、実は普通の理にかなったことなんです。それに、例えば九州の水で新潟のお米を炊いて本当においしいでしょうか? そこにチベットの岩塩を合わせたとしたら? なんだか不自然ですよね。九州の水には、やはり九州で作られたお米が一番合います。そこは料理人の範疇ではなく、自然が決めるおいしさなんだと思います。
 
 ですから店で使う食材も基本は関西のものが中心です。京野菜なら樋口さん、筍なら村上さんと、食材ごとに、信頼する生産者から仕入れています。中でも魚店である淡路島の水口さんには全幅の信頼を寄せています。毎朝2 時に漁に出て獲れた魚を、6 時には届けてくださるのですが、うちのメニューを見て、それに合う一番いい魚を持ってきてくれるんです。メニューが鯛でも、いいものがなければ平目に変わることもあります。魚に関しては漁師さん、魚店が一番の目利きですから、信頼しお任せしています。もうお付き合いは数十年になりますが、若いころは一緒に漁に出て、眼の大きさや肌の色など、さまざまな方法で良しあしを知る方法を教えていただきました。同じ魚でも産地で味や特徴が変わることや、同じに見えて全く味の異なる魚がいることも…。食材というのは実に多面的で、そのことをよく知らなければ、本当においしい料理を作ることはできません。
 
 
50 年後の日本の食生活を見据えて
 
料理のみならず、日本料理を世界に広げる活動にも従事されていますが、今後については。
 
 ある推計によると、2060 年の日本の人口は約8000 万人に減少し、うち65 歳以上が約40%、就労前の年齢の人口が約20% になると言われています。つまり、それ以外の人が国民全体を食べさせないといけない時代が来るのです。そのころには経済成長も少なく、地球規模で食料危機に陥っている可能性は高いでしょう。そのとき子供を飢えさせないために、今から日本料理を世界にPRし、“ 世界の料理” にしたいと思っています。日本料理は品数が多いのにヘルシーでおいしい、世界に類を見ない料理ですから、世界の方々の健康のお役にも立つことです。
 
 また、国内では休耕田を減らし食料自給力を上げるべく、子供たちに地域の野菜、ご飯を食べてもらう食育の推進をしています。「畑を耕しているあのおじさんの野菜はおいしい」というところから、地域、国への愛情が自然に育って欲しいですね。
 
 さらに今、理事長を務める「日本料理アカデミー」で、「日本料理大全」という日本料理のバイブルのような本の編さんもしています。これまでは「見て覚える」「カンで覚える」が当たり前でしたが、大学の農学部のご協力を得て、それを科学的に見える化して、ロジカルに解説する内容になっています。例えば、包丁の断面を顕微鏡で写し切れ味の違いを説明したり、魚のレントゲン写真で調理法について説明したり…。発酵や琳派など、日本料理の背景についての話もあります。英語版も含め、現在2 巻まで完成していますが、ここに日本料理のすべてをまとめて、いずれは国連5 カ国語で発刊したいと思っています。この本ができれば、それを基準に料理技術の検定を行なうことができます。今料理業界には技術を測る明確な基準がなく、料理人は置かれた環境により差がつき、優れた人が評価されないこともあります。そうではなく、努力した方が報われるフェアなシステムを作りたいのです。そうすることが、日本の料理業界全体、さらには日本の食文化全体の発展にもつながると信じています。


淡路島の水口さんから仕入れた、極上の鯛を使った向付明石天然鯛 山葵 黄韮

菊乃井 代表取締役・総料理長
村田 吉弘 
Yoshihiro Murata
〈profile〉1951 年京都の老舗料亭「菊乃井」に生まれ、大学卒業後、名古屋の料亭「加茂免」で修行を積む。76 年に実家に戻り「菊乃井木屋町店」を開店、現在は代表取締役兼総料理長に。伝統的な料理文化に精通する一方、仏料理とのコラボレーションなど、新たな試みにも着手。日本食文化のユネスコ世界無形遺産登録をけん引した功労者でもある。特定非営利活動法人日本料理アカデミー理事長、一般社団法人全日本・食学会団長

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