ログイン
検索
  • TOP  > 
  • 記事一覧  > 
  • 桐明幸弘 大山美和  「旅館の事業承継と地方創生について」 ~地域一体再生のご提案~ 連載11 地域一体再生とは何か? その意義は?
連載11 桐明幸弘 大山美和  「旅館の事業承継と地方創生について」 ~地域一体再生のご提案~

連載11 地域一体再生とは何か? その意義は?

【月刊HOTERES 2018年08月号】
2018年08月10日(金)
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 
1. 地域一体再生とは何か? その意義は?
 
 地方における旅館事業は、全体として市場が縮小しており、それに伴い地域経済も縮小傾向にあると考えています。その主な原因は、事業収益が低迷し、規模の小さな将来性のない企業を承継する次世代がいないために廃業を余儀なくされているという旅館業の実態にあります。従来、日本の旅館は地域経済を担う中心的存在でした。その証拠に、日本に存在する1000 年以上の歴史を持つ企業の半分は旅館なのです。従って、その重要な地域産業を守ることは「地方創生」において最優先とされる課題なのですが、残念ながら政府にそのような意識が十分にあるとは思えません。旅館業の再生には国と地方政府が一体となった抜本的な政策が必要だと思います。
 
 ではなぜ旅館業の再生が地域の活性化(地方創生)につながるかといいますと、現在は、DMO やIR というインバウンド誘客を中心とする政策議論において、宿泊を伴うことがその消費額向上のための一番の有効策だということです。そして、インバウンド客がわざわざ泊まりたくなるような「こと」消費の経営資源として日本独特の旅館という施設には魅力がいっぱい詰まっているのではないでしょうか。
 
 地域一体再生とは、まずは地域における魅力を「経営」の主体を明確にし、着実に成果を可視化できる仕組みを作るということを主眼においています。そこには、現実の問題として解決すべき課題が残っていて、その解決のための中心的かつ優先的なこととして旅館業の事業承継のための地域一体再生を提唱させていただいているのです。
 
2. 旅館の事業承継における課題
 
 旅館業は、地方における基幹産業と考えていますが、その承継策を考えるに当たっては以下のような課題が山積しています。これらの問題を一挙に解決する方法の一つが地域一体再生スキームであることをご理解いただければ幸いです。
 
親族後継者が不在である(後継者の問題)
 
 息子や娘に事業を継がせたいと思っているが、本人たちはすでに大企業に勤務しており、利益の出ていない大きな借金を抱えているような事業を引き継ぎたくないと思っている。
 
後継者に迷いがある(債務保証の問題)
 
 後継者にいずれは事業(会社)を継ぐ意思があるものの、有利子負債をいかに引き継ぐのかで悩んでいる。なぜなら、新社長は通常、銀行借入について個人で連帯保証を要求されるから。
 
会社が債務超過になっている(過剰債務の問題)
 
 事業を継承したいと考えている息子がいるが、会社自体の財務状況が悪化していて、そのままの状態で引き継ぐ自信がない。
 
ア旅館業が債務超過に陥っている理由
 として過去の過剰投資とそのための過剰融資が原因となっていることが多い。
 
イ地域においては、いちはやく債務超過を解消して成功している旅館もあるが、多くの旅館においてはいまだバブル期の債務を背負い、新規設備投資ができない旅館が多い。
 
株式価値が高くて、相続税が払えそうにない(相続税の問題)
 
 事業は順調であり、後継者のめどもたっている幸せなオーナー経営者でも安心できないのが高額な相続税と財産の分配方法。個人の土地の上に、法人が建物を所有しているようなケースが多く、相続によって多額の現金が必要となっても資金を用立てることができない。
 
もっと事業規模を増やしたい(事業拡大の問題)
 
 単純に現在の事業を承継するだけではなく、例えば相続税対策を兼ねて事業拡大(ほかの旅館やホテルの買収あるいは増築・改築など)を図ることができないか考えている。
 
自分の代で事業を終結させたい(廃業の問題)
 
 後継者もなく、事業を存続させる必要もないと考えているため、その出口戦略(引退・廃業の方法)についてどうすればよいか悩んでいる。
 
 以上のような旅館の経営者の悩みをほとんど一挙に解決できる方法の一つとして「地域一体再生スキーム」を考案し、既に各地で提案をさせていただきました。これらの課題がどのように解決できるのかについては連載の2 回目から解説しておりますので、バックナンバーを確認いただければ幸甚ですが、おおよそのスキームのポイントを下記にお示しします。
 
ア対象旅館:同一地域の旅館で債務超過となっている旅館複数を一体として再生します。
イ再生方法:旅館を所有・経営・運営に機能分割し、このうち経営部分を一体化します。所有部分はいったん再生ファンドに保有してもらい、このとき余剰の債務を整理。
ウ経営形態:地域に一つの経営会社を設立し、そこから運営受託の形で旅館運営。廃業したい旅館は、経営会社に引き取ってもらう。
エ出口戦略:後継者が希望する場合には、所有部分をファンドから買い戻して承継完了。
 
3. 地域一体再生と地方創生
 
 旅館の事業承継を中心とした地域一体再生を推進していくと、現在地方創生の切り札として推進されているDMO やIR 構想と結びつく場面がでてくると思います。どのような地域振興策を行なうとしても、やはりその地域にできるだけ滞在してもらう宿泊需要を満たすことが地域経済の活性化に不可欠なことですから、その中心的な存在である旅館業を盤石なものとして復活させることが重要です。
 
 次回からは、地域一体再生スキームの具体的な進め方についての解説を再開します。読者の皆様からのご意見も積極的に反映していきたいと思いますので、どうか忌憚なくご意見を賜りますようお願い申し上げます。

月刊HOTERES[ホテレス]最新号
2024年04月15日号
2024年04月15日号
本体6,600円(税込)
【特集】本誌独自調査 2024年日本のホテルチェーングループ一覧〈前編〉
【TOP RUNNER】
リージェントホテル香港 マネージング・ダイレクター ミシェル…

■業界人必読ニュース

■アクセスランキング

  • 昨日
  • 1週間
  • 1ヶ月
CLOSE