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第八回 連載 もてなしだけではもう食えない 立教大学 ビジネスデザイン研究科 特任教授 沢柳 知彦

連載 もてなしだけではもう食えない 第8回 「立ち入り禁止」の向こう側(2)

【週刊ホテルレストラン2020年12月25日号】
2021年01月16日(木)
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☆お知らせ☆
本連載の実践版ウェビナーを開催いたします。

【ウェビナー】 実践版!「もてなしだけではもう食えない」
第一回:レベニューマネジメント ~ 顧客満足度の総合的理解
日時:2021年2月8日(月)19時~21時
参加費:3000円(税込み)

ご興味いただける方は下記よりお申し込みください。
http://hoteresonline.com/articles/9455

(前回までのあらすじ)
東京・池袋西口にそびえる独立系ホテル「ホテルメガロポリス東京」の経営改善のために経営企画室長に任命された花森心平。コンサルタントとして迎えることとなった立身大学の准教授 辻田健太郎のアドバイスを受けながらさまざまな改善プロジェクトを社内で取り仕切っている。今回のテーマである「ホテルの会計分析」の中で、話はユニフォーム会計の意義に差し掛かっていた。

 
---
 
「ああ、いいご質問です。近藤さんはエクセルの作業をしながら、聞いてください。以前、私はある国内系ホテルチェーンの管理会計をみたことがありますが、ご丁寧にオーバーヘッドコストも各部門に割り振っていました。でも、それはあまり有益ではありません。ユニフォームシステム導入のメリットのひとつに、部門長の責任をはっきりさせることで業績考課に活用できる、というものがあります。どういうことかというと、例えば客室支配人は、客室部門において客室単価設定を変えたり、シャンプーのグレードを落として経費を節約したり、いろんな裁量があります。そして、その結果が客室部門の粗利益となって現れるわけです。でも、総支配人や近藤さんのようなバックオフィスの人件費は客室支配人のコントロール外。ホテル全体のマーケティング費や修繕費も然り。それらの、客室支配人が管理できない費用を割り振ってしまうと、客室支配人自身の力量を測ることが難しくなります。日本の会社ではマネジャーの業績考課やボーナス査定にそのマネジャーが管理する部門の損益を直接反映させることはしない風潮がありますが、海外では違います。ボーナス査定のベースになる自分の部署の損益が総支配人が使った接待交際費で減ってしまったんじゃ、やりきれないですよね。なので、オーバーヘッドコストは配賦しないことになっているんです。」

「なるほど。うちのホテルは典型的な『日本の』会社だ。昇給もボーナス査定も総合評価ってやつで決まるから、ユニフォームシステムが入る意義は少ないな。」

「近藤さん、そうじゃなくて…。だから、ユニフォームシステムの導入は人事システムの見直しとセットにしないと業績改善効果が薄い、ということなんです。」
 
そこまで辻田の説明をじっと聞いていた花森がここで手を上げて質問する。
 
「先生、でも例えば、ずっと赤字のレストランのマネジャーは昇給やボーナス査定の時に不利じゃないですか? 人事異動でたまたまその部門に配属になったら、僕だったら、モチベーション下がりますけど。」
「そうだろうか。君はホテルメガロポリスという赤字企業の経営企画室長になって、モチベーションは下がったかい?たぶん、君の頭の中には『このホテルを黒字化できたら、総支配人は自分のことを評価してくれるはずだ。』という思いがあるはずだ。赤字の部門でも赤字幅をどれだけ改善したか、を査定のモノサシにすればいい。赤字が縮小したのなら、ボーナスを払う働きに値する。だから、人事評定を含めた人事システムの見直しも必要なんだ。」

「なるほど。でも今、話を伺っていて、気づきました。経営企画室長ってポジションは今回財津さんが新しくつくったんですが、私は自分がどうやって評価されるのか、全然知りません。」

「その辺も日本的だね。欧米流のいわゆるジョブ型雇用では、まずポジションがあって、そのポジションに座る人は何をすべきかが明確に決まっている。その内容は、ジョブ・ディスクリプション(job description) - 日本語では職務記述書と訳すらしいけど、それに具体的にリストアップされている。『具体的』というのは大事で、例えば『ホテルを黒字化する』だけだと大雑把過ぎるよね。僕みたいなアドバイザーをいじめて安く雇うとか、財務支配人に疑似ユニフォームシステムを作らせるとか、大目標達成のためのブレークダウンされた目標設定が必要だ。まあ、そのあたりはどうやって経営目標を立てるべきか、というテーマで、また別の機会に話そう。」

「先生、安く雇う、ってところ、強調しないでください。専門家を雇う予算がないのは私のせいじゃありません。ユニフォームシステムと同じで、マネジャーに自身のコントロール外の要素を配賦しないでください! でも、ジョブ・ディスクリプションをきちんと作っておくことは、私の仕事を効率よく進めたり、プロジェクト管理表を作ることとも関係がありそうですね。近いうちに総支配人の時間をとってもらって相談してみます。」
 
それまでエクセル上で何やら作業をしていた近藤が、ここで二人の会話に割って入る。
 
「花森のもうひとつのジョブ・ディスクリプション、僕に疑似ユニフォームシステムを作らせる、って方は、ひとまず目標達成だ。うちのホテルの去年のユニフォームシステム基準の損益計算書がこれだ。」
 
近藤は自分のPCを会議室に備え付けられている大型スクリーンにつなげ、計算結果を投影する。

 

「ユニフォームシステムでは減価償却費や役員報酬、借入金利負担なんかを除いたホテル営業利益をGOP、Gross Operating Profitというのは知っている。それと、賃料が払えないことにはホテルの存続にかかわるから、その辺も最後に計算しておいた。どうだ、これで少しは外資系ホテルの経営に近づいたか?」

「近藤さん、すごいです。もちろん運営経費の部門間配賦は一定の仮定をおいて行なっているので必ずしも正確ではないかもしれませんが、この表だけでいろいろなことが見えてきます。その議論を始める前に、一点確認なのですが、先日拝見させていただいた財務会計書類としての損益計算書上では昨年度の減価償却費は268百万円でした。実際に資本支出としてはどのくらい使っていますか? 資本計上科目は損益計算書には出てこないのですが、キャッシュフロー上は現金流出科目ですので、確認をしておきたく。」

「えっと、去年は特に大きな修繕工事はなかったと思うけど、あ、和食レストランの武蔵野と中華料理の新華楼で家具の入れ替えをしたな。ホテル上層階の客室の壁紙とカーペットの張替えもしている。合計199百万円だ。結構使っている。」

「なるほど。GOP – 賃料 - 資本支出額 = 4百万円、ってことですね。それと、財務の損益計算書には償却資産税と火災保険料が計39百万円計上されています。これらも現金流出科目ですから、このホテルは金融収支前キャッシュフローで35百万円の赤字だったということになります。」

「それはわかってるよ。こんな状況でも社長は50百万円の役員報酬払えっていうし、結局、豊島興産から100百万円追加で借りた。豊島興産から金を借りて豊島社長個人に役員報酬払うって、変な感じだけど、それは社長が判断すること。僕の仕事は、このホテルの資金繰りをつけることだ。」

「近藤さん、ご説明ありがとうございます。資金繰り状況は承知しました。さて、改めて近藤さんの力作を見てみましょう。客室部門の利益率は65%、本当は70%くらいほしいところですが、既にレベニューマネジメント、オーバーブッキング、直販誘導などいずれも利益率改善に寄与すると思われる施策が検討されていると伺っていますので、今日は深入りしないでおきましょう。ちなみに、私が客室部門利益率が70%くらいほしい、といっているのは、ユニフォームシステムベースのホテル損益計算書を数多く分析すると見えてくる、ベンチマークというやつです。」

「辻田先生、よくわかります!何だか大学の講義を受けているようでワクワクします。」

「花森君、それは大学教授ではない人に向かっての発言なら誉め言葉だが、あいにく僕は大学教授そのものだ。人にわかるように講義するのは僕の本業だ。」

「先生、すみません。ですが、学生の頃は正直申し上げて講義が楽しいと思ったことがありませんでした。それはきっと、講義の内容が自分の生活と直結していると思えなかったからなんでしょうね。でも、今は自分の働いているホテルの経営分析をしている。やっぱり、ワクワクします。」

「なるほど。そのワクワク感は仕事をこなすうえでのよいモチベーションになるね。さて、花森君の受講感想は脇に置いておいて、話を先に進めよう。客室部門の次に売上が大きいのが料飲部門だ。でも利益率はわずか10%。花森君が前から気にしていた通り、ひどい状況だ。近藤さん、レストラン別の損益で一番足を引っ張っているのはどこですか?」

「ダントツ最下位で、フレンチの『ファイン・ワイン・ダイニング』だな。年間40百万円近い赤字だ。運営費もさることながら、売上不足が主な原因だと思う。他のレストランが1席当り年間売上が2百万円を超えているのに、ここだけは1.6百万円しかない。一日平均で4千円強。花森君がいたウェストゲートは一日一席7千円以上売り上げているよ。もっとも、朝昼晩と営業しているから、売上高が高いのは当然かもしれないが。」
 
花森は自分の古巣がまあまあの運営結果を残していることに安堵しつつ、近藤に確認する。
 
「ファイン・ワインは村上さんが料飲支配人になった3年前に重厚なフレンチからカジュアルにコンセプトを振って、うまく客足が伸びたと思ったんですが、まだ駄目なんですね。」

「確かに前はもっとひどかった。ホテル最上階の25階にあるから眺めはいいんだが、事前予約の客しか来ないし、客層の年齢層が高齢化していた。村上のアイデアで『そこそこの品質のワインを値段を気にせず飲める』というコンセプトにして若年層の取り込みを図ったのはうまくいったと思うけど、何せ140席の大箱だ。客のボリュームを確保するのは容易ではないな。特に、ディナータイムの座席回転率は0.3と散々だ。平均すると1/3しか席が埋まっていないということだ。もっと客席数を絞って、こじんまりとした運営にした方がいいんじゃないか?」

「近藤さん、お言葉ですが、縮小均衡は一つの選択肢ではありますが、そうするとそもそもホテル自体、こんな大箱いらない、ってことになってしまいます。仮にファイン・ワインの店舗を縮小するとして、最上階の余ったスペースをどう活用するのかをセットで考えないと意味がありません。」
 
辻田は近藤にやんわりとくぎを刺す。
 
「大型ホテルでレストラン運営をやめてしまったスペースを『貸切専用レストラン』とか『多目的ミーティングルーム』っていう名前にとりあえずしているところを見かけることがありますが、そういったスペースはほとんど収益を生んでいないと思われます。人口減少と高齢化が急速に進む地方都市ならいざ知らず、ここは世界有数の一日当り乗降客数を誇る巨大ターミナル駅・池袋の真ん前です。レストラン運営をあきらめるのは早過ぎます。」
 
辻田はそういうと、改めて花森の方を見た。
 
「花森君、君が気にしていた『どの部門がどのくらい儲かっているか、あるいは儲かっていないのか』はこのユニフォームシステムで分析ができるようになる。あとは、今のフレンチレストランの議論のように、コンセプトの問題なのか、客のボリュームの問題なのか、単価設定の問題なのか、活性化委員会で議論を深めていくといい。その際、できるだけ『独りよがり』にならないことを気にかけておいてほしい。『独りよがり』とは、レストランのコンセプトを決めたり、グランドメニューを決める際に、シェフだけとか、ホテルスタッフだけとか、もしくは外部の広告代理店のような企画屋だけで決めてしまうことだ。君は既に正しい顧客満足度調査の仕方を知っている。レストラン客層の入れ替え、リポジショニングをする際には、新たなポジションには十分な量の見込客がいることを確かめる必要がある。『こんなレストランは好きか?』だけではなく、『この価格設定で行きたいと思うか?』『友達や恋人を誘うか?』を忘れずに聞くことだ。統計分析ができるほどのアンケート回収ができそうもない場合は、フォーカスグループインタビューといって、複数の顧客を集めて対面のインタビューをする方法もある。」

「辻田先生、わかりました。ご指導、ありがとうございます。ユニフォームシステムによる分析が経営改善案策定とそのモニタリングに有効なのはよくわかりました。会計システムと人事システムの同時入れ替えを視野に入れて、近藤さんと財津さんに相談したいと思います。ところで、ウェストゲートですが、コンセプトが古くなってきており、改装計画があります。もちろん、親会社が改装費を貸してくれるかどうか不透明な状態なのですが、少なくとも計画はきちんと作って豊島社長にご説明を差し上げなければなりません。改装計画を進めるべきか、一旦様子見すべきか、について、ご意見をいただけませんか?来月早々には第一次案がまとまる予定です。」

「辻田先生、僕からもお願いします。財務としては本当に良い改装計画なら親会社を何としてでも説得してカネを引っ張ってくるつもりだけど、本当にいい計画なのか、よくわからないんだ。」

「近藤さん、花森君、わかりました。では、花森君との定例会議の次の話題は改装計画の承認・実行について、にしましょう。ところで花森君、地下のミーティングルームにずっといると外が雨なのか、日が沈んだのか、よくわからないね。でも僕の腕時計によるともうすぐ正午だ。ホテルのレストランに行きたいとは思わないが、ホテルの従業員食堂には興味がある。もしよかったら、連れて行ってくれないか?」

「もちろんです。今日は先生が好きなかつカレーがあるかはわかりませんが。」

「えっ。僕、別にかつカレーが大好きってわけじゃないよ。」

「でも、先日学食では迷わず選んでおられましたし、初めて先生の研究室にお邪魔したときにお持ちしたウエストゲートのかつサンドもすごい勢いでお食べになられていたじゃないですか。」
 
花森達はホテルの従業員用カフェテリアに到着した。辻田は花森の質問を不思議そうに聞きながら、こう答えた。
 
「ああ。それはたぶんきっと、単に早く食べられそうなものを選んでいるだけだ。僕にとってはランチメニューの決定にあたって『早く、手軽に食べられる』という要素が非常に重要なんだ。食べたいと思ってからすぐに食べられるなら、なんでもいいんだ。学食のメニューには何キロカロリーって表示されるようになってきているだろう?僕は『このメニューは何秒で提供できます。』っていう情報が欲しいんだけど、残念ながら、ない。だから、経験則で早く提供されて早く食べられたメニューとしてかつカレーを頼んでしまうのかもしれない。」
 
「そうですか…。先生、いつも奢ってもらっているので、ささやかですが、ここでは僕に奢らせてください。ホテルの従業員証をここにこうかざすとキャッシュレスで食券が買えるんです。」

「ありがとう。ではお言葉に甘えて。でもまあ、こんな感じで客のニーズは様々だ。ファイン・ワインにもきっとフィットするコンセプトが見つかるよ。」
 
辻田はそう言ってランチ定食Aのボタンを押した。今日のA定食はかつ丼だった。

 

(次号へつづく)

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2021年02月26日号
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