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【レポート】「CAMPARI GROUPカクテルグランプリ2023」優勝は伊藤 博之氏(BAR Eight Rabbit / 埼玉県)

2023年12月01日(金)
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2023年11月27日(月)カンパリグループの日本法人であるCT Spirits Japanが開催する「CAMPARI GROUPカクテルグランプリ2023」のセミファイナル・ファイナル大会がWITH HARAJUKU(東京都渋谷区)にて開催された。
 

一次選考を経た10名がセミファイナルへ進出。セミファイナルでは、会場にある食材や道具を活用し、即興性が求められる「アペリティーボ マーケットチャレンジ」が行われた。3名が進出したファイナル大会では、一次選考で提出した「パイオニア・ザ・ニューエイジ」のカクテル実演が行われ、伊藤 博之氏(BAR Eight Rabbit / 埼玉県)が優勝を飾った。
 
本大会は審査員も錚々たる面々であった。Campari Group Cocktail Grand Prix 2022 チャンピオンであり、SPIRITS BAR Sunface SHINJUKU Owner / Bartenderの江刺幸治氏、SG Group 代表 後閑信吾氏、Bar Rocking chair オーナー 坪倉健児氏、スピリッツ&シェアリング株式会社 代表取締役 南雲主于三氏、そして審査員長にカンパリグループ・CT SPIRITS JAPANブランドアンバサダー 小川尚人氏と、世界の第一線でバーシーンを牽引する方々が審査を担当した。
 

江刺幸治氏
江刺幸治氏
後閑信吾氏
後閑信吾氏
坪倉健児氏
坪倉健児氏
南雲主于三氏
南雲主于三氏


ファイナルの様子を中心に、以下レポートをしたい。伊藤博之氏(BAR Eight Rabbit / 埼玉県)、朝倉美奈氏(BAR東京 / 東京都)、佐藤創氏(Bar LIBRE / 東京都)の競技模様の後、総評で審査員長の小川氏が述べたことを振り返りつつ解説をしてみたい。
 

伊藤博之氏
伊藤博之氏

ファイナル大会のトップバッターは伊藤博之氏であった。「パイオニア・ザ・ニューエイジ。意味は先駆者、開拓者として新時代を切り拓くこと。私は埼玉県三郷市に、バーの無い故郷にバー文化を創ることを信念にお店を開業しました。」と伊藤氏は語り、競技が始まった。
 

伊藤氏にとって三郷という故郷、地域が重要な意味を持っている。BAR Eight Rabbit自体が地域にとっても先駆的な意味合いを持つからこそ、共に歩む意味を込めて「Con Tuttini」というカクテル名に決めた。イタリア語で「みんなで」を意味するCon Tuttiにマティーニを掛け合わせた造語だ。
 
カクテルの代名詞とも言えるマティーニ。しかし、度数も高く初心者にはとっつきにくさのあるカクテルでもある。伊藤氏は昨今の飲酒需要の低下やノンアルコール需要を踏まえ、今後のカクテル文化衰退への懸念を示していた。
 
その一方で、ノスタルジーを感じさせるような昔の作品に対するリバイバルも近年よく目にする。カクテルの世界でも、クラシックのツイストが先端となり、新しい時代を創っている状況がある。
 
伊藤氏はそうしたことを踏まえ、過去現在未来の様々な世代が集い、クラシックなマティーニと見た目も遜色なく、区別がない「みんなが」楽しめるカクテルを目指した。
 
チンザノ1757に、カンパリをベースに作ったGTC透明発酵液(ゴルゴンゾーラ・ピカンテ、和紅茶、ヨーグルトを加えクラリファイドしたもの)を加え、ベルガモットをスプレーしステアする。これからの世代に楽しんでもらえるよう、10%未満の適度なアルコール度数で仕上げている。
 

競技中の伊藤氏
競技中の伊藤氏
質疑応答の一コマ
質疑応答の一コマ
伊藤氏の作品【Con Tuttini】
伊藤氏の作品【Con Tuttini】


 

朝倉美奈氏
朝倉美奈氏

二番手はBAR東京の朝倉美奈氏だった。朝倉氏は「ヒーリングカクテル」という提案でテーマに挑んだ。ヒーリングアートやアートセラピーという心理療法について触れつつ、アートとしてのカクテルにも同様の効果が見込めるのではないか。バーで自分と向き合う時間、五感を使ってカクテルを味わうことで癒しが得られるのではないかというコンセプトだ。
 

朝倉氏は、飲む芸術としてのカクテルに更に物語という要素を込めることで、より没入感を演出していく。使用するメスカル「モンテロボス」のラベルに描かれている狼にちなんだエピソードだ。
 
そのエピソードとは、シートン動物記で知られるシートンの実体験に基づく創作「Lobo, the King of Currumpaw」だ。王者として君臨するロボの風格や自然の香りを、「モンテロボス エスパディン」で表現している。
 
朝倉氏は、ロボの物語を語りながら、カクテルの材料を加えていく。ロボには1,000ドルの賞金が懸けられたことを語り、千を意味するGrandと掛けてグラン・マルニエを加える。中々捕まらないロボは知的でもあり、その知性の表現として抗酸化作用のあるブルーベリージュースを加える。
 
捕まらないロボに対して、ロボを直接捉えるのではなく、つがいであるブランカに目をつける。ブランカが殺され、怒りに狂うロボを表現するために、物語の舞台ニューメキシコ州の料理に欠かせないチリをはじめ、生姜やブラックペッパーなどの様々なスパイスを用いた自家製シロップを加える。
 
物語りも終盤となり、誇り高く去ったロボの一生に華を添えるようにラベンダーの花を浸したライムジュースを加える。ラベンダーの花言葉である献身的な愛がロボのブランカへの想いを感じさせてくれる。シェイクし、茄子で形どった月を添えて提供された。
 

競技中の朝倉氏
競技中の朝倉氏
厳しい質問も飛び交う質疑応答
厳しい質問も飛び交う質疑応答
朝倉氏の作品【Gran Lobo】
朝倉氏の作品【Gran Lobo】


 

佐藤創氏
佐藤創氏

最後の実演は、Bar LIBREの佐藤創氏であった。佐藤氏は開始一番、「審査員の皆さんの中でウイスキーハイボールが苦手な方はいらっしゃいますか?」と審査員に問いかけた。問の背景にあるのは「なぜ日本でこれほどウイスキーハイボールが愛され、定着しているのか」ということだった。
 

佐藤氏は続けて「非常にシンプルなレシピなのですが、私はここに氷というレシピが一つ加わっているからだと考えます」と述べる。佐藤氏のお題に対する回答は「氷」、特にフローズンカクテルにおける味わいへの挑戦だ。「エスポロン アネホ」をベースにしたフローズンマルガリータのツイストを仕上げていく。
 
溶けても美味しいフローズンカクテルのために、加える素材を凍らせて加えていく。チンザノプロセッコにパイナップルジュース、アガベシロップを加え凍らせたもの加える。味わいの安定性を鑑み、フレッシュなフルーツではなく酒石酸にきび糖を加えたものを同様に凍らせてを用いる。
 
ブレンダーで混ぜる際にも、スプーンやストローを用いないセミフローズンスタイルで仕上げを行う。仕上げにマルガリータに欠かせない塩味として味噌のパウダーを振りかける。世界中どこでも、冷凍設備さえあれば作れる「ボーダレス」なマルガリータ。マルガリータの愛称「メグ」を用い「ボーダレス・メグ」という名のカクテルを提供した。
 

会場への問いかけなどプレゼン力も高い佐藤氏
会場への問いかけなどプレゼン力も高い佐藤氏
坪倉氏の質問で一時会場が笑いに包まれたが、鋭い質問も飛び交った
坪倉氏の質問で一時会場が笑いに包まれたが、鋭い質問も飛び交った
佐藤氏の作品【Borderless Meg】
佐藤氏の作品【Borderless Meg】


【審査員の声から思うこと】
 

小川尚人氏
小川尚人氏

総評として審査委員長の小川氏は、セミファイナル大会のマーケットチャレンジでは、もう少し奇抜な発想があっても良かった点について触れ、ファイナル大会については「パイオニア・ザ・ニューエイジ」というお題に対して、説得力の強い理由付けや味わいがもう少し明確に欲しかったと述べていた。
 

今回、率直に言ってテーマと審査員が共に素晴らしく、挑戦者にとって非常に挑戦し甲斐のある大会であったと思う。しかしその反面、小川氏の指摘することも分からなくもないと感じた。これには2つの側面があると思う。1つは、新しい分野なりを切り拓くということに対しての視野を広げてもよかったのではないかという点。もう1つは、エントリー者が伸び伸びと創造性を発揮できるようなコンテクストのマネジメントに工夫が必要な点だ。
 
前者は比較的分かりやすい。一言で言えば「経験か歴史か」だ。カクテルの大会だからお酒を基に考えるのは分かるが、文化を拓くという点で他の事例から学べることはたくさんあるはずだ。先駆者はどのようにして文化や新しい潮流を生みだしていったのか。今回の大会では、酒類以外の事例から学ぶという要素があまり感じられなかったように思える。
 
酒類に関わらず、世の中には色々なブレークスルーが存在する。俗にイノベーションと呼ばれるものにも、改善を重ねるインクリメンタルなものと、新技術などの大きな断絶のあるラディカルなものがある。また、意味を捉え直すことによって新しい価値を生み出す意味のイノベーションというものもある。
 
そうした様々なモノや技術が生まれた背景や視点から学ぶこともできるし、他分野への応用で新しい潮流が生まれることもある。例えば、カクテルにも欠かせない器だが、柳宗悦を中心とした民藝運動を考えてみてほしい。柳宗悦にとって民藝とは何だったのか、何が彼をその考えに至らせたのか。そうしたことを考えたり調べたりすることで、その発端の流れが感じられるかも知れない。
 
大きな潮流を生む切っ掛けは何なのか。これに対する視野がカクテルや酒類に端を発する見方に偏っていたことが、小川氏が指摘する明確さや力強さの欠如に繋がっているのではないかと感じた。例えば、カクテルやお酒関係なく、自身の趣味や夢、興味のあることなど、突き詰めたものを感じさせる情熱や哲学がもっと反映されていても良かったように感じられた。
 
この一種のこじんまりとした様相は、挑戦者のみに起因する問題ではない。それが、2つ目のコンテクストマネジメントに関することだ。端的に言えば、主催者と挑戦者、審査員共に大会に対する共通のコンテクストが醸成されているかどうかが重要だということだ。
 
マネジメントに携わる方ならこんな経験はないだろうか、「部下にやらせてみたけど、思いのほか無難な案しかあがってこなかった」。さてこの場合、何が問題なのだろうか。1つしか提案できない状況であれば、部下側からすれば、あえてリジェクトされる可能性が高いものよりも無難なもの、もっと言えば「評価者が好みそうなもの」を考えて提案してくることは容易に想像できる。適社性にそぐわないものはアイデアの段階から挙がってこないこともある。
 
上記のような場合、部下側に責任があるのだろうか。部下は「空気」を読んで提案しており、その「空気」をつくっている上司側や所属する組織に起因する要素はないだろうか。そもそも「空気」は読む必要があるのだろうか。あるとすれば、どのような状況下だろうか。そこに評価ということがなければどうだろうか。
 
コンペティションはマーケティングの側面もある為、企業色が出てしまうのは仕方ない。しかし、ただ行うだけでなく、そのコンペティションで何を成し、どのような人材と縁を結んで、どのようなアウトカムを出したいのかを設計し、それを提示することも企業側としては考慮してもよいのではないだろうかと感じる。
 
例えば、今回の錚々たる審査員が考える「パイオニア・ザ・ニューエイジ」が事前に提示されていたらどうだろうか。挑戦者はその完成度に感嘆しつつも、どのレベルで臨まなければ審査員を唸らせることが出来ないかの一端を感じ取ることができるであろう。
 
先にも述べたが、今回の大会はテーマ、審査員共に最高といえるコンペティションであった。だからこそ、少しのずれが結果として「もう少し」という枕詞が付いた総評に至ったのではないかと感じた。
 
 
【次回が楽しみ】
CT Spirits Japanには、是非とも次回以降も日本で最高の舞台を用意して頂きたいと願う。今回挑戦した参加者に会場で話を聞いたが、とても刺激になったし勉強にもなったという声が挙がっていた。
 
挑戦者だけでなく、審査員側も学びがあった大会になったのではないかと思う。次世代を育成していかなくてはいけない立場の方々にとって、コンペティションをどのように活用してタレントを育てていくかという経験の場としても貴重であっただろう。また、バーテンダーだけでなく、経営者として経験や視点というのも活用していって欲しいと感じる。
 
山内氏はその著書『「闘争」としてのサービス―顧客インタラクションの研究』の中で、サービス提供者と顧客が価値を共創するには「闘争(struggle)」が欠かせないと指摘している。本大会は評価のスタイルも独特であった。評価の場、もしくは開催後日にでも挑戦者と評価者が互いに闘争し合い、より高め合うような場であって欲しいと願う。
 
今回の大会を踏まえるからこそ、次回の大会がより楽しみになる。是非、次こそはと思われる読者の方がいたら、今回のお題に対し、自分なりに様々な視点から挑戦をしてみて欲しい。そうした姿こそ「パイオニア・ザ・ニューエイジ」に欠かせないものだと思う。
 
【大会結果】
優勝 伊藤博之氏(BAR Eight Rabbit / 埼玉県)
2位 佐藤創氏(Bar LIBRE / 東京都)
3位 朝倉美奈氏(BAR東京 / 東京都)
 
審査員特別賞(ベストホスピタリティ) 
岸田茉利奈氏(東京エディション虎ノ門 Gold Bar / 東京都)

優勝 伊藤博之氏(BAR Eight Rabbit / 埼玉県)
優勝 伊藤博之氏(BAR Eight Rabbit / 埼玉県)
2位 佐藤創氏(Bar LIBRE / 東京都)
2位 佐藤創氏(Bar LIBRE / 東京都)
3位 朝倉美奈氏(BAR東京 / 東京都)
3位 朝倉美奈氏(BAR東京 / 東京都)
審査員特別賞(ベストホスピタリティ)岸田茉利奈氏(東京エディション虎ノ門 Gold Bar / 東京都)
審査員特別賞(ベストホスピタリティ)岸田茉利奈氏(東京エディション虎ノ門 Gold Bar / 東京都)

【参考文献】
山内裕(2015)『「闘争」としてのサービス――顧客インタラクションの研究』中央経済社


担当:小川

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