鮨&バー「正倉」の店内
最近ラグジュアリーホテルの鮨レストランがおもしろい。単に高級鮨だけを提供するのではなく、例えばフランスのミシュランスター巨匠シェフがプロデュースするフレンチと江戸前鮨の融合や、京都や日本各地から厳選した日本茶、イギリスのティーブランドなどジャンルにとらわれない飲みものと王道鮨とのペアリングを楽しませたり・・・・・。
そんな中、極めて上質な隠れ家感とイノベーティブな鮨で食通たちを虜にしているのが「紫翠 ラグジュアリーコレクションホテル 奈良」の鮨&バー「正倉」だ。同ホテルは大正時代建築の奈良県知事公舎をリノベーションし、奈良公園の西、旧興福寺境内地に2023年8月にオープンしたラグジュアリーホテルだが、その空間の素晴らしさは特筆すべきものがある。鮨&バー「正倉」はそんな旧知事公舎にあった蔵をモダンに再生した、わずか8席のみの隠れ家鮨レストランだ。奈良の歴史と日本の“SUSHI”を新たな視点で解釈した、イノベーティブな鮨コース料理が秀逸で、つまみ、鮨ともに実に楽しく、うなる美味しさ。同ホテルの日本料理のレストランをはじめ、総料理長を務める松勢良夫氏がクリエイトする鮨コース“古櫃(KOKI)“は、和食や鮨だけのジャンルに拘らず、フランス料理の技法を取り入れたり、奈良ならではの素材にもフォーカスしながら、ここでしか味わうことの出来ない鮨ワールドを展開している。


メニューは季節によって変わるが、車海老と磯辺揚げのビスク、サーモン漬けの燻製など、また静岡のキャヴィア「Hal」は塩分濃度を指定したオリジナルだ。最後に赤だしの代わりにて出されるビーフコンソメがこよなく美味しかった。
そしてペアリングしてくれる日本酒がまたどれも絶品。奈良といえば日本酒。そんな名蔵元からセレクトした日本酒も魅力のひとつ。つまみも握りも単なるイノベーティブではない、本物の美味しさ。それも松勢さんのプロフィールを知ると納得する。フランスのミシュラン3つ星レストラン、「アルページュ(Arpege)」「ギーサヴォワ(GUY SAVOY)」「トロワグロ(Troisgros)」など錚々たるグランメゾンで約10年間、本場での経験を積んだのち、2016年より「翠嵐 ラグジュアリーコレクションホテル 京都 」内のレストラン「京 翠嵐」のレストランシェフに。2017年に「翠嵐 ラグジュアリーコレクションホテル 京都 」の総料理長に就任。現在「紫翠 ラグジュアリーコレクションホテル 奈良」の総料理長として、奈良の魅力ある食材を調達し、生産者たちの交流を深め、日々アップデートしている。
それにしてもこのホテル、ロケーションが本当に素晴らしい。立地は奈良公園内。東大寺、興福寺、春日大社などの世界遺産に囲まれた吉城園周辺地区に位置し、ホテルの敷地は平城遷都と共に藤原京から移設された興福寺の子院があった場所。「正倉」のあるメイン棟は、大正時代に建てられた「奈良県知事公舎」をリノベーションした建物だが、当時の宮大工がイメージした洋風文化のエッセンスも現存し、歴史を感じさせながら、実にモダンなテイストもある唯一無二の世界観。ホテルのコンセプトである、「伝統の結び」を体感しながら、ここでしか出会うことのできない「時の流れ」の中に、身を委ねるような感覚は他のレストランでは決して味わうことができないとびきり贅沢な時間だろう。
(文:ホテルジャーナリスト 松澤壱子)


■ 鮨&バー「正倉」 紫翠 ラグジュアリーコレクションホテル 奈良
■ 問い合わせ TEL:0742-93-6511