英国・レイクス蒸留所のブランドアンバサダー、Chris Dennis(クリス・デニス)氏を招いたウイスキーと食のペアリングイベントが3月10日、ホテルオークラ東京 メインバー「オーキッドバー」で開かれた。会場では、同蒸留所初のコア商品「SIGNATURE(シグネチャー)」を起点に、複数の限定エディションを比較試飲しながら、蒸留所の成り立ちや製法、味づくりの考え方が紹介された。
単なる商品説明にとどまらず、食との組み合わせを通じてブランドの設計思想を伝える構成となっていた点も特徴的で、ホテルバーや料飲の現場にとっても、プレミアムウイスキーをどう見せ、どう提案するかを考える機会となった。
イングリッシュウイスキーの新しい流れの中で
レイクス蒸留所 ブランドアンバサダー Chris Dennis(クリス・デニス)氏
デニス氏は冒頭、イングリッシュウイスキーを取り巻く近年の動向に触れた。説明によると、この20年でイングランドには68の蒸留所が誕生しており、英国の蒸留所史の中でも大きな広がりを見せているという。背景には法制度面や事業性の向上もあるが、それ以上に「イングランドでも質の高いウイスキーを造ることができる」という認識が市場に浸透してきたことが大きいとした。
その流れの中で、レイクス蒸留所は新しいイングリッシュウイスキーを象徴する存在の一つとして紹介された。デニス氏自身も、ロンドンやシンガポールでバー運営やスピリッツ業界に携わってきた経験を持ち、現在はブランドアンバサダーとしてレイクスの魅力を各地で伝えている。
レイクディストリクトに根差した蒸留所の成り立ち
蒸留所の起点として語られたのが、創業者ポール・カリー氏の構想だ。カリー氏は1990年代にスコットランド西岸でアラン蒸留所の立ち上げに関わった人物で、その後、次のプロジェクトの地として選んだのが、幼少期から親しんできたレイクディストリクトだった。
レイクス蒸留所は、国立公園であり、ユネスコ世界遺産にも登録されているレイクディストリクト北部、バセンスウェイト湖近くの旧酪農施設を改修して整備された。自然環境に恵まれた地域であり、降雨量が多いことから、水資源の面でも蒸留所立地としての条件を備えているという。
会場では、蒸留所の意匠や土地の背景にも触れられた。現地の建築に見られる“四つ葉”のモチーフは、地域の歴史や文化を示す象徴の一つとされ、レイクス蒸留所においても土地との結び付きの強さを示す要素として紹介された。
「育てる」熟成を支えるエルヴァージュの考え方
イベントの中核となったのは、レイクス蒸留所の特徴として語られた「Élevage(エルヴァージュ)」の考え方である。デニス氏はこれを「育てる」という言葉で説明した。一般的な熟成のように、ただ樽に詰めて長期間置いておくのではなく、熟成途中で状態を確認し、必要に応じて別の樽へ移し替えながら、狙った香味へ導いていく手法だという。
蒸留所では、ニューメイクを50~60樽単位で一つのまとまりとして管理し、まずはオロロソ樽を中心に熟成を開始する。ペドロ・ヒメネス樽なども使い分けながら、最初の段階で原酒の土台をつくっていく。
その後、約9か月が経過した時点で最初の重要な確認を行う。この段階では、原酒が想定どおりに熟成しているかを見極めるとともに、問題があれば早い段階で修正できるようにする。一方で、この確認時に、当初思い描いていた方向とは異なるものの、ポジティブな意味で非常に良い変化が現れる樽が出ることもあるという。そうした樽については通常の流れとは分けて管理し、個別に研究を進めながら、特別な表現につなげていく。
9か月後の確認では、それぞれの原酒の中心的な特徴を表す言葉も与えられる。たとえば、バニラ、シトラス、スパイスといった言葉で方向性を整理し、その後の熟成管理の軸とする。これにより、その原酒が最初の樽とどう反応しているかを把握しやすくなるという。
3年後の再判定で、樽使いの次の方針を決める
熟成が3年に達すると、蒸留所では二度目の重要な判定を行う。この段階では、9か月時点で与えた特徴に加え、香味の強度をA、B、Cで分類し、原酒の個性をより立体的に把握する。たとえば「シトラス」であれば、そのシトラス感がどの程度の強さで現れているのかを段階別に整理するイメージだ。
ここで決まるのが、現在の樽のまま熟成を続けるのか、別の樽へ移して複雑さを加えるのかという次の方針である。オロロソ樽で育ててきた原酒をそのまま深めるのか、それとも別のオークへ移し替えて、新たな層を加えるのか。最終的にはウイスキーメーカーが研究所で全体のプロファイルを確認しながら判断するという。
このような管理を通じて、レイクス蒸留所では現在約1万樽を扱っており、多くの原酒が3~5種類の樽を経て最終的な表現へとつながっていくと説明された。
試行の先に生まれたコア商品「シグネチャー」
こうした考え方の到達点として位置付けられたのが、蒸留所初のコア商品「SIGNATURE(シグネチャー)」である。レイクス蒸留所ではこれまで、「Whisky Makers Reserve」シリーズを1から7まで展開し、自らの味わいの方向性を探ってきた。その積み重ねの末に、継続的に供給できるハウススタイルとしてまとめ上げたのがシグネチャーだ。
説明では、オロロソ樽とペドロ・ヒメネス樽を主体に、一部アメリカンオークを組み合わせた構成で、無着色、ノンチルフィルター、アルコール度数47%の商品として紹介された。蒸留所としての輪郭を最も端的に示す1本であり、限定品の多様性が広がる中でも、「レイクスらしさ」を最も明確に表す商品として位置付けられていた。
質疑の中でも、「レイクスらしさとは何か」という問いに対し、デニス氏はハウススタイルの中心はあくまでシグネチャーにあると説明した。リザーブシリーズを経て探り当てた味わいの到達点がシグネチャーであり、現在のレイクスを語る上での基準点になるという考え方である。
限定エディションで示した多彩な表現
一方で、蒸留所のもう一つの柱として紹介されたのが、限定展開の「Edition」シリーズである。こちらはコア商品とは異なり、エルヴァージュの考え方を生かしながら、より実験的な表現を試みるシリーズとして位置付けられている。 同じものを繰り返し造るのではなく、その時々の原酒や樽使いによって限定的な個性を打ち出していくのが特徴だ。
当日はその代表例として4種類が供された。
「Equinox(エキノックス)」は、カルバドス樽由来の要素を取り入れた商品で、果樹園を思わせる果実感や、はちみつ、花を思わせるニュアンスを備えた軽やかな方向性として紹介された。
「Nostalgia(ノスタルジア)」は、アメリカンオーク由来の個性を前面に出した表現で、シナモン、クローブ、ナツメグ、バニラといった要素を感じさせるスタイルとして説明された。シェリー樽主導のイメージが強い蒸留所にあって、別の角度から個性を引き出した1本という位置付けである。
「Kairos(カイロス)」は、100%ヨーロピアンオークを特徴とする商品で、オロロソやペドロ・ヒメネスに加え、一部にスペイン本土由来のワイン樽も使われていると紹介された。赤系果実やタンニン、ややドライな余韻を持つ方向性が印象的な1本として扱われた。
そして最後に供された「Galaxia(ギャラクシア)」は、過去のエディションシリーズの一部原酒を再構成した集大成的な位置付けの商品として紹介された。複数の表現を一つに束ねたような構成で、シリーズ全体の歩みを振り返る意味合いも持たせた1本とされた。
ホテルバーや料飲提案にも通じる試飲会に
当日は、チーズやホテルオークラ東京のビーフジャーキーも用意され、各ウイスキーとの相性を確かめながら試飲が進められた。蒸留所側は、味そのものだけでなく、どの樽使いからその香味が立ち上がっているのか、どのようなシーンで魅力が伝わるのかまで含めて体験させる構成を取っていた。
その意味で今回のイベントは、単なるブランド紹介の場ではなく、ホテルバーや料飲部門にとっての提案のヒントにもなった。シグネチャーは継続的に提案しやすい基幹アイテム、エディションは限定性や会話性を持たせた提案型アイテムとして位置付けることができる。コア商品でブランドの軸を示し、限定品で表現の広がりを見せる。その二層構造こそが、今回のイベントを通じて最も明確に伝わった点といえそうだ。
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主催元:雄山株式会社
公式ホームページ:レイクス蒸留所




