2月1 日、「2016 年ミシュランガイド」の発表は、世界一のレストラン、スイス・ローザンヌの《ロテル・ド・ヴィル》のシェフ、ブノワ・ヴィオリエの追悼のための黙もくとう祷で始まった。今年はパリの中心シャンゼリゼに近い二つのホテルのレストランがそれぞれ3 ツ星を獲得！ と華やかな発表のはずだったが。
 
　編集長マイケル・エリ氏は10 年前からデジタル版が発行されてもなお、一冊の本としてのミシュランを愛する人たちが世界中にいることを強調し、107 年目の今年にカラー写真をたくさん入れたこと、印に「フォーク」をやめ、お皿とフォークとナイフの「アシエット・ミシュラン」を登場させたことを発表した。評価は、3ツ星、2 ツ星、1 ツ星、アシエット・ミシュラン＝素直においしい店、そしてビブグルマン＝手ごろでおいしい店、に分類されている。
 
　今年の星は600 店。うち3 ツ星は26 店（新規2 店）、2 ツ星は82 店（新規10店）、1ツ星は492店（新規42店）。
 
　1 ツ星のシェフたちの最年少は23歳、勢いのある地方の若手がぐんぐん育ってきている、そして日本人シェフ3 人がパリで1 ツ星を獲得したことがうれしい。《ナカタニ》の中谷シェフ、《 ネージュ・デ・テ》の西シェフ、そして満を持して獲得した《パージュ》の手嶋シェフの3 人である。近年フランスにおける日本人の活躍は華々しく、オーナーシェフになっている日本の料理人は数多い。フランスで修行し、そしてフランス人を相手に仕事をする、そんなことが自然にできるアジアの料理人が多く育っていることを心強く感じる。今年は韓国の料理人もリヨンで1 ツ星を獲得している。
 
　そして2 ツ星でも日本人の活躍は目覚ましい。2 ツ星発表の際に最初に名を呼ばれたボルドーの《ラ・グランド・メゾン・ジョエル・ロブション》のシェフ檀﨑友紀だ。恵比寿の《シャトー・ジョエル・ロブション》開業時からロブションにその才能を高く評価され、ラスベガス、シンガポール、そしてボルドーへ赴任し、見事に2ツ星からのスタートとなった。
 
　ロブション氏はプレス発表、夜のカクテルともに欠席だったが、檀﨑シェフはとてもうれしそうにステージに立った。
 
　そして冒頭で触れたように、3 ツ星獲得の新規店は、地方ではなくパリ、それも街の中心からだ、フォーシーズンズ・ジョルジュ・サンクのレストラン《ル・サンク》とプラザアテネの《アラン・デュカス》の2 店。《ル・サンク》は長く3 ツ星を取り戻せずにいたが、《ルドワイヤン》で12年間3ツ星を保っていたクリスチャン・ル・スケールシェフを14 年10月に引き抜き、総支配人以下ホテルが一丸となって3 ツ星奪還を目指していた。《アラン・デュカス》は昨年いきなり2 ツ星を取り、今年は3 ツ星に昇格。肉を一切使わないその料理は、パリでも健康志向の上流階級の人々に愛されているという。
 
　そして今回の話題は、3 ツ星の《アンブロワジー》のオーナーシェフ、ベルナール・パコーの息子マチュー・パコーが、《エキサゴン》で1 ツ星を、そして《イストワール》で2 ツ星を獲得したこと。「合計で3 ツ星、パパの店と合わせると6 ツ星だよ」と笑顔で話してくれた。
 
　一方、少し残念なニュースは長年シェフ亡き後も3 ツ星を保っていた《ベルナール・ロワゾー》が2 ツ星に降格したこと。マダム・ロワゾーはそれでも気丈に夜のカクテルには出席していた。また、日本にも来て元気いっぱいの《アクラム》も2 ツ星から1 ツ星へ降格。そして10 年間、ニースで1 ツ星を守り、日本人シェフ活躍の先駆けとなった松嶋啓介が星を失った。残念ではあるが、すでに彼の中にはコロンブスのように次の航海先が決まっているようだ。本書はフランスで2 月5 日金曜日に24.90 ユーロで書店に並んだ。
（文　内坂芳美）