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SPECIAL INTERVIEW 一般財団法人日本総合研究所理事長 寺島 実郎 氏 

カジノというコンテンツがなくても 高付加価値の観光の形は描き切れる

【月刊HOTERES 2016年06月号】
2016年06月17日(金)
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日本を取り巻く空気が急速に内向きになり、閉塞感に支配されている私たち日本人の姿。そこから脱却するためには、就業人口移動が集中しているサービス産業の高度化を目指さなければならないと寺島実郎氏は提唱する。サービス産業をリードする観光産業はその実現のカギを握るが、現実には突破しなければならない問題が山積している。著書『新・観光立国論―モノづくり国家を超えて』(NHK 出版)の中で、日本全国の各地域が知恵比べをしながら日本版統合型リゾート(IR)の創出を追求する動きの必要性を説く寺島氏に、日本の観光産業、ホテル、ホスピタリティーが新たな次元へと突き進むための方法論についてインタビューした。


一般財団法人日本総合研究所理事長 寺島 実郎 氏

海外旅行をする日本人の減少は
日本の閉塞感を象徴している
 
——現在の日本のマクロ経済について、どのように分析していますか。
 
21 世紀に入ってからの15 年間、日本経済にとっての最大のポイントは中間層の没落にあります。日本人の9割が「自分は中間層である」と思っているという意識構造は従来通りですが、その実態は微妙に変化してきています。かつての「中の上」から、現在の「中の下」へと多くの人たちの生活がシフトしてきているのが現実ですが、その流れの中で中間層という虚構の意識だけは持ち続けているのです。実際のところ勤労者世帯の可処分所得の統計を見ると、21 世紀に入ってから一家計あたり年間約60 万円近く、手元で使えるお金が減ってしまっています。
 
こうした実態を背景に、日本人からアクティブなマインドが極端に失われてしまいました。別の言い方をすれば、「旅行どころではない」といった機運が高まっているのです。小遣いが減り、交通費が減り、外食が減りというアクティブを阻害する状況が蔓延して、日本人の視界が急激に狭くなってきていると感じます。
 
これまで自分たちの最大の価値であると思っていた「分厚い中間層」から豊かさが失われ、日本という国を取り巻く空気が急速に内向きになってしまった。ここでもう一度、日本が置かれている状況を冷静に考える必要があるでしょう。
 
最も説得力のある理由は、ものづくり分野からサービス産業へと日本人の就業構造を移動させたことです。日本は製造業と建設業から約340 万人の雇用を減らし、360 万人以上の雇用をサービス業において増やしました。マクロ統計だけを見れば失業率は減少しているので「素晴らしい国ではないか」となるのですが、その実態を見れば月10 万円以上も所得を減らしてサービス産業に移っているという構図が浮かび上がってくるのです。
 
1960 年代の高度経済成長期に就業人口移動が行なわれましたが、その際には生産性の低い農業というセクターから、生産性の高い製造業や建設業というセクターへと移ることで国民の生活は豊かになりました。
 
その豊かさをテコにして、日本人は旅行もするようになりました。一人当たりGDPが5000 ドルを超えたあたりから海外にも出ていくようになり、2万ドルを超えると個人旅行でも海外に行くようになったのです。ところがその動きが、近年劇的に変化してきました。
 
たとえば2015 年はインバウンドが1974 万人だったと喜んでいますが、逆に海外に出て行く日本人は減少しています。この傾向は現在の日本の空気を象徴していると感じています。
 
確認しておきたいのは、最近の日本人の渡航先は、ハワイ、グアム、サイパン、近場のアジアに集中しているということです。アメリカの東・西海岸、欧州においては日本人の存在感はほとんど消えてしまい、そこで出会う日本人がいたとしても若い女性か定年退職後の老夫婦ばかりです。働き盛りで若くて元気なはずの壮年層は、海外旅行をする余裕すらなくなっているのです。このことが日本を取り巻く空気を閉塞感に満ちたものへと変えてしまっていると思います。
 
サービス産業をリードする
観光分野に光をあてて育てる
 
――商社に入社してきた新入社員が「海外赴任をしたくない」と言って、先輩社員が「君は商社というものをどんなふうに理解して入ってきたんだ」と驚いたという話を聞きました。
 
日本がどんどん内向きになってきている中で、就業人口移動が集中してきているサービス業を高度化しない限り、日本はこれ以上豊かになれないと私は考えました。その意味において、サービス産業のリーディング産業である「観光」の分野に光をあてるべきだと思います。日本人が観光分野で胸を張って飯を食べて、隆々と生活していけるようになってほしい。しかし実態を見てみると、たとえばホテル業界は二重構造になっていることなどがわかってきました。
 
私が学長を務める多方大学のゼミに、とても優秀な学生がいました。歯を食いしばって世界中をまわり、キリマンジャロの頂上まで登ってきたようなアクティブな男です。そんな彼がホテル企業に胸を張って入社したのですが、半年で辞めてしまったのです。その理由を本人に確かめたところ、労働組合もないまま、にわかには信じがたい低賃金で休みなく働かされ、それが観光産業の常識だと思い込まされていたのです。
 
それは離職しても当たり前の労働環境であり、その一方でホスピタリティーマネジメントなどという気取った言葉を使っている。そんな二重構造が日本のホテル業界には垣間見られるのです。こうした状況を認識した上で、米国コーネル大学ホテル学科で志を抱きながら本物のホスピタリティーマネジメントを学んできたような人間が活躍でき、豊かさを享受できるような日本の観光産業に創っていかなければならない。それは私にとって、一つの大きなテーマなのです。

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