「おもてなしは心なり ホテルは人なり」変えないことを貫くポリシーと紡ぎゆく時代との対峙
1764年開業の旅籠亀屋を前身に、1894(明治27)年に創業した「万平ホテル」は、2024年に130年を迎えた。軽井沢を象徴するホテルの一つであると共に、88(明治21)年を機に開発が加速した別荘地における食を支えるレストランとしても大きく寄与してきたという。大規模改修・改築をへて2024年10月2日に再開業し、同年12 月にはブランジェ浅野屋の買収を果たしたことで、新たな万平ホテルのステージが始まった。(株)万平ホテル社長で総支配人 佐々木一郎氏に今後の営業戦略とブランディングについて聞いた。

(株)万平ホテル 万平ホテル
代表取締役社長 総支配人 佐々木 一郎氏
1988年、森ビル観光(株)(現・森トラスト ホテルズ&リゾーツ(株))入社。主に宴会サービス、婚礼、料飲部門にて研鑽を積む。2010年に「ウェスティンホテル仙台」宴会婚礼部門の責任者として婚礼ビジネスの立ち上げから運営に携わり、仙台での婚礼ビジネス活性化の一端を担う。その後、同ホテル料飲部長、副総支配人をへて、「翠嵐 ラグジュアリーコレクションホテル 京都」、「イラフSUI ラグジュアリーコレクションホテル 沖縄宮古」の開業準備を経験。19年「イラフ SUI ラグジュアリーコレクションホテル 沖縄宮古」総支配人、21 年「琵琶湖マリオットホテル」総支配人を歴任し、24年5月「万平ホテル」総支配人就任、現在に至る。
130周年目のグレードアップ「愛宕館」は全室温泉付きに
標高1000m の高原地帯・軽井沢のクラシックホテル「万平ホテル」の創業は1894 年(明治27 年)。同ホテルを経営する森トラストは、130年の節目として2024 年に大規模改修・改築工事を完工した。中でも1936年(昭和11 年)に完成した「アルプス館」は、2018年(平成30年)に国の登録有形文化財として登録されており、象徴的なレセプション、メインダイニングルーム、カフェテラス、バーなどと全12室の客室からなる構成は大きく変えず、和洋折衷の室内意匠やハーフ・ティンバー風の外観意匠も継承、ただし次の時代を紡いでいかれるようなサステナビリティな改修を施したという。
「まず、アルプス館全体をジャッキで持ち上げて改修が始まりました。このタイミングで客室はパッケージ空調システムに切り替えましたが、軽井沢という立地と自然との共存・サステナビリティを考え、ダイニングには断熱性を強化した上でこれまでも使われていた温水式暖房システムを新設、さらにはエレベーターの設置によってバリアフリー化を図り、快適性を大きく向上させる改修が施され、完成に至りました」
同ホテルは、このメイン棟の「アルプス館」ほか、「愛宕館」「碓氷館」とバンケット棟の4 部構成。中でも大規模改修・改築の目玉の一つと言えるのは、解体し新築した「愛宕館」だろう。全30 室は温泉風呂付き(45~91㎡)かつ、万平ホテルの伝統的なモチーフ(ロゴデザイン)を用いた新たなしつらえに生まれ変わっている。
「当館で唯一、温泉を客室でお楽しみいただけるのが愛宕館です。この棟は全体の売り上げをけん引する施設へと進化しています。すでにADR は7万円ほどと順調に推移しておりますが、特に常連のお客さまの中には、それぞれの館を楽しみたいというニーズから連泊が増えたのも思わぬ効果です。これまで3シーズン(11~ 3月まで休館)だった営業を通年にし、関西セールスなどを強化することでクラシックホテルとしての新たな顧客獲得を狙っていきます。新たなバンケット棟は現状、ブライダルよりも法人などの会合需要が多く、今後も多様な需要に対応できるオペレーション力を推進していきます」
また同館の奥に位置する全44室の「碓氷館」は、2種のデザインとテラス付きの部屋を構え、うち1種は多くの賓客をもてなしてきた「アルプス館」をオマージュした内装へと変容し、もう1 種は居住性の高い客室タイプも設けた。三つの宿泊棟に新たな個性を持たせながらも、万平ホテル然たる趣は随所に継承させている。何よりも同ホテルは、軽井沢駅から続くメイン通りより奥に入った小高い丘に囲まれ、良質な湧き水に恵まれた桜の沢に位置する。
現在、この地は条例でホテル建設ができないことを思えば、万平ホテルとしての意義深さとその価値の創造が不可欠になる。
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