フラットな組織文化の実現には、スキルの向上が不可欠
組織文化に親和性がある人材を迎え入れることができただけでも安心できない。働き甲斐が得られなければ転職してしまうのは、台湾でも変わらない。それだけに、組織としてリテンション対策を図る必要もある。「星のやグーグァン」では、どう取り組んでいるのであろうか。
「我々のリテンション対策は王道です。動機付け要因と衛生要因の両方が挙げられます。特に、動機付け要因は弊社らしいアプローチだと思っています。役割や責任の範囲を明確にして、スタッフが主体的に動ける環境を構築していますし、責任の範囲がわかったときには必要な権限をしっかりと委譲して、働きやすい環境につなげています。また、スタッフが意思決定や問題解決に主体的に参画できる場を作ること、それに必要なスキルを延ばしていく機会を作ることも大事にしています」
さらに、吉田氏が付け加えたのが情報共有の重要性だ。これは、星野リゾートでもかなり重視されており、経営情報をスタッフ皆とできる限り共有して情報の格差や優劣を作らないようにしているという。
では、教育や研修に対する考え方はどうか。ここでも、大前提となってくるのが星野リゾートが掲げる「フラットな組織文化」だ。それを実現するためにも、コミュニケーションスキルやビジネススキルが求められると吉田氏は指摘する。
「やはり組織に何らかの提案をするとなると、その内容がチームメンバーにとってもわかりやすく、論理的に組み立てられていたり、わかりやすい言葉として伝えられないといけません。なので、一定レベルのスキルがあってこそフラットな組織文化が成り立つと言えます。それだけに、育成には力を注いでいます」
もともと、星野リゾートでは早くから人材育成には意欲的に取り組んでおり、社内ビジネススクール「麓村塾(ろくそんじゅく)」を2002年から開催している。内容は、ワインからデジタルスキルまでと多種多彩。運営されている講座は年間で150近くにも及ぶ。しかも、「学びたいときに学びたいことを学ぶ」自学自修のスタイルや施設単位での独自講座の運営も見られるなどとかなりユニークだ。
「星のやグーグァンでも、自分たちに必要な講座を自主的に判断し、企画して学んでいます。具体的には、日本語や日本文化、日本食を学ぶ講座、谷關という地域の歴史や特性を理解する講座などを用意しており、台湾人スタッフが積極的に受講してくれています」
それでも、まだまだ道半ばであると吉田氏は強調する。サービスのプロフェッショナルだけでなく、ホテル運営のマネジメントを目指すスタッフに訴求するコンテンツをもっと拡充していかなければいけないと考えているからだ。
吉田氏が、そう考える理由がある。それは、「星のやグーグァン」のビジョンとして台湾ナンバーワンのホテル運営会社になることを掲げているからだ。
「総支配人である私がそのビジョンにコミットすることは当然ですが、組織のメンバー一人ひとりにも実現へのプロセスを共感してもらい、一緒に作り上げてもらいたいと思っています。もちろん、メンバーにだけ成長を求めているわけではありません。私自身もしっかりと総支配人として成果を出せる人材になっていかないといけません。本当にホテルの総支配人には、人間力を含めてさまざまなスキルが求められます。組織効力感を高めるためにも、まずは自らが範を示していかなければいけないと思っています」
同時に吉田氏は、そうした想いをスタッフと共有するためにもコミュニケーションの質と量に配慮している。量が多くなければ情報共有が止まってしまうし、フィードバックの数も減る。また、質も重要だ。
「ただ単にコミュニケーションをして終わりではなく、それを本人の成長につなげていかなければいけません。また、ホテルにとっては一人ひとりのスタッフが貴重な商品となるだけに、スタッフとの関係性を大事にしていく必要があります。これもホテルとしての品質管理の一環なのかもしれません」
「星のやグーグァン」で初めて総支配人に昇進した吉田氏は、今改めてホテリエの仕事の奥深さ触れると共に、仲間とその喜びを共有していきたいと思っている。いつの日か、「星のやグーグァン」がビジョンを実現することを心待ちしていきたい。
「星のやグーグァン」総支配人 吉田 裕之氏




