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第二十二回 『とんがりホテル コンセプトが斬新な魅力宿』 第二十二回「LINNAS Kanazawa」CEO/ホテルプロデューサー 松下秋裕氏

北欧の豊かな暮らしをヒントにした人と街を繋げるホテル

2021年07月20日(火)
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 宿泊産業の競争が激化し、ゲストのニーズが多様化しているいま、ホテルのマーケティングに求められている戦略は、とんがりをつくることである。とんがりで差別化し、そのとんがりに関心のあるゲストが集まる。本連載では、そんなコンセプトが際立ったホテルや宿泊施設を厳選して紹介し、それを支える秘訣を紐解いていく。担当するのは、立教大学観光学部で宿泊ビジネスを学ぶ学生たち。学生のピュアな目に、日本のホテルはどう映り、どう表現されるのか。
 
 取材・執筆/立教大学観光学部 平塚まり子 渡辺紗織 監修/宿屋大学 代表 近藤寛和

 

 LINNAS Kanazawa(以下、リンナス)は2021年4月に金沢市尾張町にオープンしたライフスタイルホテル。ガイドブックには載っていない金沢の街の魅力を発信し、街の外と街の中の人を繋ぐHUBとなるようなホテルである。リンナスのコンセプト「HYGGE(ヒュッゲ)」(デンマーク語で「満ち足りた」や「居心地の良い」という意味)にあるように、北欧の日常の楽しみ方にヒントを得て、ホテルでの滞在を通して暮らしの幸せに気付く提案をしてくれる。そんな街と人の魅力の詰まったリンナスの代表、松下秋裕氏に話を伺った。
 

●松下さんの経歴を教えてください。


 高校1年生の時にオーストラリアに一カ月ホームステイした経験から海外へ矢印が向き始め、大学1年生の夏休みからバックパッカーで合計64カ国を回りました。通貨がユーロに切り替わる瞬間を見たくてエストニアに合計で1年半滞在し、エストニア語とロシア語を習得しました。今コミュニケーションを取れるのは日本語を入れて五カ国語で、インバウンドのお客さんが来たらその言語で挨拶して驚かせて心を掴みます(笑)。

 日本に帰ってきてジョーンズ・ラング・ラサールに新卒で就職し、不動産運用の業務を1年半務めて海外のファンドのお客さんと関わりながら不動産×金融のリテラシーを鍛えてもらいました。ですが不動産の仕事を自分事と捉えられず、場所のコンテンツを作る側に回りたいという思いから、当時の会社のホテルチームで今のエンブレムホテルの代表である入江さんが独立するタイミングで僕もジョインさせてもらってホテルの道に進みました。

 

松下秋裕CEO
松下秋裕CEO
LINNAS Kanazawaのエントランス
LINNAS Kanazawaのエントランス


 エンブレムホテルでは足立区の「エンブレムホステル西新井」からスタートしました。今まで観光客が行かなかったローカル東京を発信する場所としてブランディングすることになり、僕自身ホテル運営のノウハウはなかったのですが、バックパッカーの経験からユーザー目線は分かりました。東京で経験を積んだ後、金沢と箱根にも進出し、運営の統括として三拠点をカバン一つでバックパッカーのように回りながら仕事をしていました。
 
 ホテル業界に入って、やはり課題として賃金の低さ、労働時間の長さを感じたので、まずは僕自身が休みを取るようにし、繁閑を利用して3カ月に一回は海外旅行をしていました。スタッフに対しても、ホテルは旅を扱う仕事であり、旅が好きな人たちが集っているはずなのに、旅ができていないことに矛盾を感じたので、旅をしやすいような人事制度や旅の手当を導入してスタッフ自身が学びの時間を取れる仕組みを作りました。「ワークハード・プレイハード」ですね。
 
 その後コロナ禍によってエンブレムホテルは金沢から撤退することになりましたが、僕自身、金沢が好きになって去年移住していて、このまま金沢で事業していきたいと思うし、この街も好きで地元のファンの方のコミュニティも継続したく、場所を引き継いでリンナスとして生まれ変わらせました。
 
 今後はもっとリンナスを面白い街に展開し、リンナスがそこにあるということはその街が面白いんじゃないかというブランドにしたいんです。金沢はその一号店ですね。金沢もまだ海外の人にとってはコアな街だと思うので、リンナスがきっかけでその街を知ってもらえるように、すべての活動はその街の良さを引き出すためなんです。噛めば噛むほど味が出る場所を味わってもらいたいです。
 

暮らしを豊かにするヒント、人それぞれの「HYGGE」

●北欧での経験がホテルに表れているなと思うのですが、コンセプト「HYGGE」にこめた思いを教えてください。


 エストニアに滞在して北欧の国々を訪れたんですが、彼らって何気ない日常の中で自分自身を豊かにするポイントを用意するのが得意なんです。それを一言で「HYGGE」と言うんですが、今の日本のように人とも会いにくく家で過ごす時間が増えて、心が落ち込んだり不安になったりということを僕自身も感じたんですね。そこで北欧の人たちの暮らしを豊かにするヒントを取り入れて、日本式に再定義するかたちで「HYGGE」をライフスタイルホテルで提案できたらと思ったんです。また、人間の感情や行動って気候で変わると思っていて、北欧も金沢と同じで降水量が多く、気持ちの矢印が内側に向かってしまう人間の感情の共通点があると感じました。その中でインテリアや家具を明るくして暮らす北欧をヒントに、「HYGGE」をテーマにしました。
 

●日本でいう「HYGGE」とは何でしょうか。


 難しいですが、日本人が取り入れやすいものとしては禅の思想と相性がいいと思っていて、金沢にも禅の世界を表現した建物が多く残っています。心が穏やかになる無の境地が、北欧の人がゆらゆらと燃えている炎を見て心が落ち着く感じと似ているなと個人的に思います。
 
 ですが、リンナスで「HYGGE」をどう言語化しようかとなった際にも、言語化するとどうしてもチープになってしまう、本来ならふわっとしたものでそれが良さなのにある側面からでしか捉えられなくなってしまうと思い、「とけあう、ひろがる、ゆたかになる」というコンセプトにとどめるようにしています。実際にホテルに泊まることで体感してもらったり、ノートでHYGGE Magazineを作っていて、それを読んでもらってその中で何となくわかってもらえればいいかなと思っています。

 

オープンシェアキッチンでは、毎晩宿泊者たちがコミュニケーションを楽しむ
オープンシェアキッチンでは、毎晩宿泊者たちがコミュニケーションを楽しむ
フロントデスク前には、金沢や北欧の雑貨が並んでいる
フロントデスク前には、金沢や北欧の雑貨が並んでいる

人が人を繋いでいく、日常の延長線上のアンドプレイス

●実際にはどんな方が泊まりに来ることが多いですか。

 
 僕らもびっくりしたのですが、今インバウンドの人はいないはずなのに東京に住んでいる外国の方が4、5月は多く泊まりに来てくれて、ラウンジの公用語が英語になっていました(笑)。日本の方もコンセプトを理解してくれてワーケーション目的だったり、僕らに会いに来てくれることが多かったです。
 
 プロモーションの面では新規のお客さんを呼び込む作業はあまりしていなくて、SNSなども泊まってくれた方やファンになってくれた方とのコミュニケーションツールでしか使っていないです。

 

●共感した人が集まって、そのコミュニティがまた自然に人を集めるんですね。


 みんな口を揃えて言ってくれるのが、リンナスって面白い人が集まるから面白いんだよねと。価格を下げたりすれば新しいお客さんを獲得することは出来るけど雰囲気は壊れてしまう、でも常連さんばかりでなく開けた場所ではありたいという、どっちつかずな乙女心です(笑)。でもそれも人間らしいじゃないですか。
 

●リンナスが提供している「居心地の良い豊かな日常=アンドプレイス」の考え方が生まれた経緯を教えてください。


 新しいホテルのブランドを立ち上げる際に、最初の段階からブランディングやマーケティングはしっかりとプロの意見を聞きながら作りたいということは譲れなかったので、金沢と東京を拠点にしているブランディング会社、ミラークリエイティブオフィス株式会社とクリエイティブパートナー契約を結び、彼らと一緒にコンセプトやロゴなどを作成しました。アンドプレイスもその中で生まれたんです。最初の方は、僕の方でもやりたいことはたくさんありつつもまだ固まっていなくて、話し合いを繰り返し、ファーストプレイスも、セカンドプレイスも、サードプレイスもやりたい、でもそれだけじゃないんですとなった時にそれってアンドプレイスだよねと。リンナスで得てもらったことを日常でも実践してもらって、どこでも居心地の良い場所に出来るという考え方を提供したいです。
 

●金沢の次に展開したい日本の好きな街はどこですか。


 ありすぎますね。日本って本当に良いところです。ただ、僕自身金沢って自然が綺麗でご飯も美味しくて人も良くて、でもそういうところって他にもあって差別化にはならないなというのは思っていて、6月は瀬戸内、7月は新潟に訪れてみて、今後は石川と他の場所との違いを深堀りして言語化出来るような時間を作ってみようと思っています。
 

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