長期戦略2035の実現に向けて鍵となるのは「人財」 持続的な成長に繋げるための「最高の処遇」を実現
(株)西武・プリンスホテルズワールドワイド(以下、西武プリンスホテルズ)は「日本をオリジンとしたグローバルホテルチェーン」を目指す。250 ホテル体制構築に向けたネットワークの拡大に向け、国内では「ラグジュアリーから宿泊特化型によるマルチブランド戦略」「政令指定都市・地方都市・リゾートでの新規ホテル・リブランドホテルのマネジメント契約」を基軸に展開する。海外では「アジア・太平洋地域を中心に、世界最高峰といわれる日本のおもてなしを提供するラグジュアリーホテルを中心としたマネジメント契約」「M&A も視野に入れた拠点拡大」を推進する。この方向性を追求するためにも、「最高の処遇」を実現して、人財を確保する。代表取締役社長 社長執行役員の金田佳季氏に、日本のホテル業界の明るい未来を切り拓くための指針も聞いた。

(株)西武・プリンスホテルズワールドワイド
代表取締役社長 金田 佳季氏
1961年10月5日栃木県出身。85年4月(株)東急ホテルズ・インターナショナル入社。92年9月東急電鉄(株)へ転籍。97年6月米国コーネル大学ホテル経営学部修士課程卒業。99年4月パン パシフィックホテルズアンドリゾーツ(株)(シンガポール本社)財務部長。2001年5月パンパシフィックホテルズアンド リゾーツアメリカ(株)(サンフランシスコ)取締役副社長執行役員。10年11月(株)西武ホールディングス入社、(株)プリンスホテル出向、同社事業統括部ジェネラルマネジャー。16年4月同社執行役員東京都市圏エリア担当兼東京都市圏エリア統括総支配人。17年10月StayWell Holdings Pty Ltdと関連23社取締役。22年4月(株)西武・プリンスホテルズワールドワイド取締役常務執行役員ファイナンシャルコントロール部、デベロップメント部担当兼ファイナンシャルコントロール部長。23年6月(株)西武・プリンスホテルズワールドワイド代表取締役社長・社長執行役員、現在に至る。
旅による体験が求められる時代に 国内外の需要を喚起できる観光産業の未来は明るい
──本年2 月には「最高のサービス・最高の処遇」を実現するという考えのもと、「2025 年度初任給最大31万円支給、全社員対象に平均5.2%賃上げ実施」を発表されましたが、この決断は長期戦略に基づくアクションだそうですね。
西武グループでは2024 年5月にリリースした「中期経営計画」に加えて、2035 年に向けた約10 年後の西武グループの姿に関する「西武グループ長期戦略2035」も発表しました。不動産事業を核とした成長戦略をベースに、不動産、ホテル・レジャー、都市交通・沿線の各事業がそれぞれの顧客価値を提供していくストーリーにおいて、ホテル・レジャー事業では「日本をオリジンとしたグローバルホテルチェーン」というキーワードを宣言しています。
日本のホテルとしてグローバルホテルチェーンを目指すというのは、単に海外に拠点を構えるだけでなく、多くのインバウンドが日本に入ってくる状況において、外資系ホテルではなく日本のホテルにいかにして宿泊していただくかを含めた戦略を進めることを意味します。
──どのようなプロセスを経て、今回の中長期戦略に取り組むことになったのでしょうか。
世界で仕事をしている10人のうち1人が観光関係で働いています。つまり観光関連産業は、世界経済を拡大できる産業なのです。日本もその認識を持つべきですが、政府が掲げる「インバウンド6000 万人」を実現するためには、大都市だけでなく地方の空港からも入国できるインフラを整備しない限り物理的に難しいと言えます。
モノ消費からコト消費へと消費者のトレンドがシフトした今、世界の旅行者に対し買い物よりも体験にお金を使うニーズに応える必要があります。旅による体験が求められる時代においてインバウンドはもちろん、国内需要も喚起できる可能性を持つ観光産業の未来は明るいと言えるでしょう。
そこで西武プリンスホテルズは、10 年後に自社のホテルネットワークを現在の約3倍に拡大するという目標を打ち立てました。2035 年に250 施設に拡大という目標は数だけを追うことを意味するのではなく、クオリティーにも目を向けながら進めることになります。
国内について現在の60施設から100施設に増やすためには、シティからリゾート、ラグジュアリーから宿泊特化まで、さらにゴルフ場やスキー場も展開している西武プリンスホテルズの強みを生かす形が求められます。海外において150 施設への拡大を目指す上では、アジア・太平洋の主要都市とリゾートでラグジュアリーを中心にアッパーアップスケールのホテルを展開していきます。
世界のホテルマーケットのラグジュアリーセグメントを見ると、アジア発のラグジュアリーホテルブランドが欧米の大手グローバルホテルチェーンに対して競争優位性を確立していることがわかります。そのマーケットが求めるものは、日本発の高いホスピタリティであり、私たちは求められるパフォーマンスを提供できる「グローバルに活躍する人財」「高いオペレーションスキルを持つ人財」の育成に力を入れています。
給与だけでなくやりがいも含めて 魅力ある観光産業として発展させる
──御社が求める人材のポイントを教えてください。
観光産業はコロナ禍で約3年もの間運営に苦しみ、ホテル業界からも将来に不安を感じた従業員が離れていきました。業界を離れる人財も多い中、日本のホテル最大手の1社である西武プリンスホテルズが従業員の働きがいを高め、また働きやすさを向上することで最高の処遇を実現する業界のリーディングカンパニーとして牽引しなければならないと考えています。
明るい未来が待っている観光産業において、仕事をする人たちが誇りを感じながらオペレーションを向上させ、自信を持てる環境を生み出さなければなりません。
ホテルの事業は質の高いサービスを提供できる「人財力」がすべてのキーを握っていることから、私たちは現場で働く人財の待遇・処遇の改善を進めなければなりません。
その取り組みを具体的に進めることで、ホテルで仕事をする人たちが最高のパフォーマンスを発揮する流れを創出したいのです。さまざまな課題をクリアしなければなりませんが、できることから一つずつ取り組もうという思いが今回の給与のベースアップなどにつながりました。
私たちが求める人財は、「挑戦意欲を持っている人」です。加えて、私が海外のホテルでの経験を通じて学んだこととして、How to Smile を知っている人よりも、「With Smile がある人」という人柄すなわち、ホスピタリティマインドがあるということ。さらにホテルが好き、ゴルフ場であればゴルフが好きであることもキーになると思います。
自分自身がやってみたいと思える仕事に就いてこそ、働くモチベーションは生まれます。宿泊業をやってみたいけれど、給与などの条件面であきらめて別の業界に就職した人たちを含めて、処遇・待遇面の改革・改善を推進することで人材確保に努めます。給与面だけでなく仕事のやりがいも含めて、宿泊業を魅力ある業種として一歩ずつ発展させていきます。