「業界最高の処遇」を実現することで ホテル業界の雇用喚起にもつなげていきたい
(株)西武・プリンスホテルズワールドワイドは「日本をオリジンとしたグローバルホテルチェーン」を掲げ、国内外への拠点拡大と運営ホテルのパフォーマンス向上による成長を目指している。そしてこの成長を支える「人財力」を強化するため、社員の「働きやすさ」と「働きがい」の両面を重視した人財戦略を実行していく。日本を代表するホテルチェーンとして「最高の処遇を実現する」という考えをベースに、社員の成長意欲の向上と思う存分力を発揮できる環境の整備のために、ヒューマンキャピタル部の旗振りのもと賃上げをはじめとする人事制度の改善を総合的に推進していく。

(株)西武・プリンスホテルズワールドワイド
ヒューマンキャピタル部 部長 大森 篤氏
月給の安定化は人材確保へのアクション 目指すは「競争力向上」と「企業の成長」
西武・プリンスホテルズワールドワイド(以下、西武プリンスホテルズ)のヒューマンキャピタル部は、全社で取り組む人財戦略を先頭に立って推進している。ホテル業界がコロナ禍による厳しさを味わったことを背景に、西武プリンスホテルズではMC を基軸としたホテルオペレーター会社に舵を切るために、オーナーとの関係性の強化が一つのテーマとして立ち上がってきた。オーナーが求めるGOP と人財戦略への投資という西武グループの方針の双方を実現していくために議論を重ねた結果、ヒューマンキャピタル部はオーナーの要望と雇用型のオペレーションの間で着地点を見つけ、人財戦略の推進に必要な制度設計まで漕ぎ着けた。
給与制度に関しては2025年度から賞与の一部を給料に組み込むことで、月給を厚くする制度に切り替える。賞与満額支給の断念に踏み込まざるを得なかったコロナ禍の教訓を生かし、今後は従業員がより安心して働くことができる安定的な給与の支給に注力する。
「月給を厚くする取り組みは、人財マーケットにおける競争力向上の面でも意味があります」とヒューマンキャピタル部長の大森篤氏は言う。「賃上げの実現を人財募集時のアピールにつなげたことで実際に応募者の人数は増え、方向性は間違っていなかったと感じています」
同社では「海外派遣プログラム」を2023 年より開始。グローバルスタンダードに精通した人財育成のために、若手社員を中心にロンドンやハワイのホテルで1年間マネジメント業務を学ぶ機会を用意している。国内においても、英会話スクールの充実化により自己啓発を促進している。
「グローバルホテルチェーン構築に向け、社員が海外に触れる機会を増やし、マインドを醸成したい。このような指針を示すことは、全体の底上げにもつながると考えています」
図:従業員の成長を促進する支援制度
類似業界で就労先として選ばれ 働き続けたい企業へと成長する
人事評価については個人ベースで行なわれ、スタッフクラスやリーダークラスの従業員については行動評価を軸に6カ月に1回の頻度で評価していく。一方、クラス(役職)が高くなるにつれ業績評価の部分が厚くなり、設定した目標に対してどれだけ達成できたかを軸に評価される。
人財担当者は、「働く人財に選ばれるホテル」になることを第一義として考えている。新卒の学生の間で就職先のファーストチョイスになるためには、観光業界、ホテル業界において「最高の処遇」の提示が求められる。
「私たちが追求する“ 最高の処遇” とは社員が最大限の能力を発揮し、成長とやりがいを感じながら働けるよう、給与、福利厚生、キャリア支援、および働きやすい環境など総合的に処遇を最高のものにするということです。
その形を実現することで従業員は最高のパフォーマンスを発揮してくれるはずですし、それは会社の業績向上にもつながり、ひいては優秀な人財の確保を維持できるプラスのスパイラルを生み出すと考えています」
2025年4月からスタートした資格手当は、グローバルホテルオペレーターに求められる「語学資格」や、オペレーション部門を中心に高い専門性を示す「専門資格」の約80 種類を選定し、保有者に対しランクに応じた手当を月額支給するものだが、たとえばHRS(★)を取得していなかったサービススタッフが新たに受験の意志を示すなど、施行前から従業員のモチベーションアップにつながった。これまでは現場での仕事を続けるよりも、何年後にはバックオフィスの仕事がしたいという従業員が目立っていたが、現場での専門性を追求することが処遇に反映される制度を提示することで、サービスのプロとしての道を極める志を持つ従業員が増えていくかもしれない。
そこからオペレーションを担う企業としての実力が向上し、ホテル業界における西武プリンスホテルズの存在感はより大きなものへと成長していくことになるだろう。
★国家検定「レストランサービス技能検定」