人手不足や多店舗展開、デジタル対応など、宿泊業界はかつてない経営課題に直面している。こうした状況を打開する鍵が、ホテル運営の中枢を担うPMSの刷新だ。
2025年、ホテルウィングインターナショナルを展開する㈱ミナシアは、全国約40施設にSQUEEZEのクラウド型PMS「suitebook(スイートブック)」を導入。わずか10ヶ月で旧PMSからの切り替えを実現した。
本稿では、導入プロジェクトを率いた㈱ミナシア運営企画部の小野氏と、SQUEEZEのプロダクト開発責任者・新井氏、導入プロジェクトマネージャー・以倉氏の対談を通じて、変革の裏側とPMSが担う経営インフラとしての可能性に迫った。
── まず、SQUEEZEとの最初の出会いについて教えてください。
小野:最初の接点は2020年頃、浅草の施設での取り組みでした。私は当時は直接関わっていなかったのですが、同じ拠点で働いていた支配人が、SQUEEZEさんとやり取りをしていたのを覚えています。PMSの刷新というより、業務効率化やDX推進に向けたコンサルティング的なところから関わっていただいていて、まずは1施設で「suitebook」を試験的に導入し、オペレーションがどう変わるかを検証していたようです。
その後、コロナ禍の影響でしばらく話は落ち着いていたのですが、2023年に入り、社内でPMSの課題が改めて浮き彫りになったタイミングで本格的な選定プロジェクトが立ち上がりました。前任者が主導して「suitebook」に決定し、私が導入プロジェクトを引き継ぐ形になりました。
SQUEEZEは伴走パートナーとして企画・コンサルティングから運用フェーズまで、 一貫して支援が可能
新井:SQUEEZEでは、いきなり「ツールを入れて終わり」ではなくて、まずは企画やコンサルティングの段階からご一緒させていただいて、限られた施設でのトライアルを経て、少しずつ深く伴走させていただくこともあります。今回のミナシアさんとの取り組みでも、まずは浅草の施設でのトライアルを経て業務フローを一緒に整理し、どうすればsuitebookが現場でちゃんと使われるか、改善しながら進めていきました。単なるシステムの入れ替えではなく、企画から現場まで一貫して支援できるのが私たちの強みですし、関わり方もフェーズに応じて柔軟に設計できるのが特徴です。
── 当時抱えていた課題について、あらためて教えていただけますか?
小野:以前使っていたPMSは、機能は豊富だったものの操作が複雑で使いきれていませんでした。コストが高額になっていたので、必要な機能をシンプルに使えるようなシステムへの切り替えが社内の大きな課題でした。事業や組織が拡大していく中で、「より使いやすく」「より習得しやすい」基幹システムを選定することの重要性は日に日に高まっていたと思います。
── 大規模なシステム変更には、通常、現場からの抵抗も少なくありません。その点、現場の方々の反応はいかがでしたか?
小野:ありがたいことに、私たちの現場では、新しいPMSへの移行に対する抵抗は想像以上に少なかったです。むしろ、多くのスタッフが現状の課題に疲弊しきっていたため、「これでシステムが安定するなら」「業務が楽になるなら」という期待の方が大きかったのだと思います。
以前から、社内アンケートなどでPMSへの不満や改善要望を継続的に吸い上げていました。PMSに関する要望は常に上位にあり、現場の課題として広く認識されていたんです。だからこそ、システム刷新プロジェクトの立ち上げは、長年抱えていた現場の課題解決に応えるものであり、皆が「いよいよ変わるんだ」という前向きな姿勢で受け入れてくれました。これは、プロジェクトを推進する上で非常に大きな後押しとなりましたね。

㈱ミナシア 運営企画部 部長 小野 雄一郎氏
2004年入社後、後楽園や相模原など複数店舗で支配人を歴任し、現場運営の改善を牽引。
2019年以降は本部で全店の運営支援や口コミ管理、収支予測、DX推進を担当し、
2024年にはPMS変更プロジェクトを率いて多数の施設切替を成功させ、2025年より現職。
現場と本部の両面を熟知し、ホテル運営とデジタル化を融合する取り組みを続けている。
「選ばれた理由」は、操作性ではなく“共に走る力”
──ホテル運営を知り尽くしたパートナーシップ
── PMSを選んだプロセスについて教えてください。
小野:選定段階では、国内外の多くのPMSベンダーを比較検討しました。候補は10社から5社、そして最終的に3社に絞り込み、さらに詳細な検討を重ねました。選定軸は明確でした。クラウド型であること、UIが直感的に使えること、そして何より簡単なものにしたいという3つです。
── 最終的にSQUEEZEを選んだ決め手は?
小野:機能面だけで見れば、当時のsuitebookは、他の成熟したPMSと比較して、足りない機能もありました。しかし、最終的な決め手は、SQUEEZEさんのホテル運営に深く精通した「伴走力」、そして「共に未来を創る」という姿勢でした。
選定段階のやり取りの中で、SQUEEZEさんのレスポンスの速さと、質問に対する回答の的確さは群を抜いていました。これは、SQUEEZEさんが自らホテル運営をされているからこそ、私たちの要望の背景にある現場の課題、経営的な意図を正確に理解し、最適な提案をしてくれるのだと実感しました。
以倉:ありがたいお言葉です。ミナシアさんが抱えていらっしゃったのは、単にシステムを入れ替えれば解決するような課題ではなく、スタッフの皆さんが現場で“使いこなせる”システムを前提に、オペレーション全体をDXしていくことが本質的なテーマだと感じていました。
だからこそ、「システムを導入して終わり」ではなく、経営課題を共に解決していくパートナーとして伴走する姿勢を大切にしていました。
私たち自身も日々ホテル運営を行っているからこそ、現場のリアルな課題に共感でき、単なる機能提供にとどまらず、運営全体に寄り添ったご提案ができることは、SQUEEZEの大きな強みだと考えています。
小野:例えば、私たちが「こういう機能が欲しい」と伝えると、SQUEEZEさんは単にそれを開発するだけでなく、「こちらの運用の方が現実的ですよ」「この機能は別の方法でカバーできますよ」といった、ホテル運営のプロとしての具体的なアドバイスを返してくれました。まさに、単なるシステム提供者ではなく、私たちの経営課題を共に考え、解決策を提案してくれるパートナーだと感じました。また、コスト面においても、旧PMSの運用コストや、外部システムとの連携にかかる莫大な費用を考えると、suitebookのトータルコストは非常に魅力的でした。このような、システム提供+運営知見+コストパフォーマンスの総合的なバランスが、SQUEEZEさんを選んだ最終的な決め手となりました。
新井:提案段階では正直、足りない機能も多かったですね。しかし、ミナシアさんのオペレーションを理解して、本当に必要なものは何かを一緒に考えていきました。フルスペックではなく使いやすさを重視されている点も明確だったので、そこに合わせた提案を心がけました。

㈱SQUEEZE 執行役員 CTO 新井 正貴氏
東京大学文学部を卒業後、アライドアーキテクツ㈱に入社し、マーケティング支援のプロダクト開発に従事。2016年4に㈱SQUEEZEに入社し、「suitebook」プラットフォームをはじめ、ブッキングエンジンやBI・経営管理ツール、外部パートナーとのOTA連携推進など、プロダクト開発全般を管轄。2024年7月に執行役員・CTOに就任。どのような機能が必要か、導入にあたって課題となるものは何か、など、主にプロダクトのスペシャリストとしてホテル経営改革に伴走。
2ヶ月の開発、10ヶ月で全店導入
─両社の本気と伴走体制
── 2024年4月に決定して、9月には導入開始。スケジュールとしてはかなりタイトな印象です。
新井:テストまで2ヶ月での開発は、極めて挑戦的なスケジュールでした。足りない機能も多い状態から、運営する上で必要不可欠な機能を作り、データ連携も完了させる必要があり、かなりハードなスケジュールでしたが、チーム一丸となって開発に取り組みました。
小野:プロジェクトメンバーの力があったから実現できましたね。各施設からメンバーを選出してもらい集まった時点で「このプロジェクトは成功だな」と。そう思えるくらい、優秀な方が各施設各部門から協力してくださったんです。プロジェクトメンバーのみならず、快く協力してくださった各部門の皆様ふくめ、会社全体で成功させていただいたと思ってます。この場を借りて心から感謝を伝えたいです。
目標にしたのは、統一したオペレーションで全店の切り替えが完了することと、シンプルなオペレーションを組み立ててシステムを習得する時間を減らすことでした。
suitebook オペレーション画面イメージ
── 100を超える改善要望があったそうですが、プロジェクト進行で工夫された点は?
小野:優先順位をつけることですね。もちろん、前提としてすべての要望に答えてあげたかったですが、時間的な制約もありましたので、「この機能は運用でカバーできる」「これは既存機能の使い方を工夫すれば解決できる」といった判断をしました。開発コストをかけるべきところと、オペレーションの工夫で対応できるところの見極めに集中しました。
新井:小野さんの優先順位付けが本当に絶妙でしたね。「あれもこれも全部欲しい」と要望が積み重なると、プロジェクトがなかなか前に進まなくなってしまうこともあります。でも、小野さんは何を最優先すべきかを明確に判断し、ステップを細かく区切って進めていく道を模索してくださった。これが、あの短期間で全店導入を成功させた1つの重要なポイントでした。
以倉:小野さんが開発側の負荷にも細やかに配慮してくださっているのが、ひしひしと伝わってきました。「ここまであれば大丈夫ですよ」と、SQUEEZEチームを気遣って言葉を選んでくださる優しさが感じられて。それが、かえって私たちの「何としてでも期待に応えよう」というモチベーションに火をつけましたね。
小野:お互いの状況を理解し、歩み寄る「本気」の姿勢こそが、この挑戦的なスケジュールを可能にした最大の要因だと感じています。単なるシステムの入れ替えをゴールとするのではなく、「ホテル運営・経営の課題を解決する」という共通のゴールに向かって優先順位をつけて動けていたからこそ、タフな状況を乗り越えられました。
システムが変わると、人が変わる。学習期間は1ヶ月→1週間へ
──DXがもたらす現場の変化
── システム切り替え後の反響について、あらためてどのように感じていますか?
小野:導入後のアンケートでは、操作性や理解度など、複数の面で約90%以上のスタッフが「良くなった・改善した」と回答してくれました。
特に大きな成果は、新人スタッフの学習期間が従来の1ヶ月から1週間に短縮されたことです。「シンプルで分かりやすくなった」「習得時間が短くなった」との声が多く寄せられました。もともと「わかりやすく、簡単に」を目的に導入を進めてきたので、期待通りの反響ががあったのはすごく良かったです。
ミナシア社からのアンケート結果をもとに、SQUEEZEにて作成
── 現場から届いたリアルな声で印象的だったものは?
小野:6月に実施した交流研修で効果を実感したとの声がありました。どの店舗から来たスタッフも、1週間の研修で基本操作を習得し、大部分は統一されたオペレーションで業務ができたと報告を受けました。従来なら1ヶ月かかっていた習得までの期間を大幅に減らすことができました。施設や部署間の人の移動や交流がしやすくなったことの嬉しかったですね。
これは、導入時にマニュアルを作り込み、全社統一のオペレーションを構築した成果でもあります。別の店舗に行き来してもスムーズに扱える状況を作りたかったので、最初のステップとしては達成できたかなと思います。
以倉:センタライズされたオペレーションは、今後の新しいデジタル施策を展開する上でも大きな強みになります。データが揃って、オペレーションが揃っているからこそ、次のステップに進みやすくなります。
── 一方で、課題や要望もあったのでしょうか?
小野:「もっとDXを進めて欲しかった」という声もありました。具体的には非対面チェックインやペーパーレス化など、よりスマートでテクノロジーを活用したオペレーションに進化したいという期待も大きいです。今回はあくまで「PMSの切り替え」が第一フェーズでしたが、実はSQUEEZEさんとも次のステップとして、モバイルチェックイン・アウト、会計システムとの連携強化などを議論しているところです。
新井:私たちとしても、課題解決のためにはより幅広い提案をしたかったのですが、タイトなスケジュールの中で、まずはPMSの切り替えに集中させていただきました。suitebookは顧客・施設管理だけでなく、予約管理・会計・清掃・CRM・レポート作成など、宿泊運営に必要な機能を一つのプラットフォームで完結できる設計です。
今後は、ミナシアさんのスタイルに合わせた非対面チェックインなど、プラットフォームやその他幅広いソリューションを順次ご提案していきます。
SQUEEZEが提供するホテルソリューション
PMSは"導入して終わり"ではない。
DXの本質は「進化し続ける」こと
── 約10ヶ月間のSQUEEZEの導入支援に対しての印象をお聞かせください。
小野:伴走力とスピード感に本当に助けられました。SQUEEZEさんがいなければ、このスケジュールでの導入は不可能だったと思います。自分たちのチームに不足している部分を引き受けてもらって、積極的に提案・行動し続けてくださり一緒に成功させる熱意を感じました。
以倉:私たちとしても、この規模のプロジェクトは大きな挑戦でした。本プロジェクトにおいては、下嶋社長や小野さんをはじめ各部署の皆さまの多大なご協力やご支援をいただき、本当にありがとうございます。プロジェクトを通じて、ミナシアさんと一緒に成長させていただいています。現場のリアルな声を届けていただけるのは非常に嬉しいですが、まだまだ日々改善すべきことやアップデートすべき機能もあるので、気を引き締めて伴走させていただきたいと思っています。

㈱SQUEEZE ソリューション事業部 マネージャー 以倉 竜一氏
大学卒業後、警視庁勤務やIT企業での法人営業を経て2019年SQUEEZEに入社。宿泊施設向け物件管理システム「suitebook」の営業兼カスタマーサクセスマネージャーとして、自社サービスの成長と顧客価値の向上をリードしている。プロジェクトマネージャー(本プロジェクトの責任者)として、全店導入に至るまでの課題抽出、プランニング、実際の導入にあたってのタスク・スケジュール管理や問い合わせ対応などを担う。
── 今後、suitebookをどのように活用していきたいですか?
小野:現場目線でいえば、当社にジョインしてくれた皆さんが、「接客の楽しみ」にすぐたどり着けるようにしたいです。
私自身、ホテル業の楽しみの一つはお客様との接客であったり、会話だと思います。でもPMSの操作は複雑で、覚えるのにとても時間がかかっていました。楽しさを感じる前に離職してしまうことすらあります。
なるべく短い期間でお客様の前に立ち、接客業の楽しさを体感してもらいたいです。そして、この仕事の魅力を感じて長く働いてもらえたら嬉しいですね。
以倉:システムの学習期間短縮は、ホテル業界全体が抱える人材不足の課題に対して、非常に大きな意味を持つと考えています。スタッフがPMSの操作習得に要する時間を短縮できれば、その分、お客様との接客やホスピタリティの向上に時間を割くことができます。これは、お客様満足度の向上に直結するとともに、スタッフが「お客様に向き合う楽しさ」をより早く実感できるようになり、結果的にスタッフの定着率向上にも繋がります。
新井:suitebookの強みは、現場からのフィードバックを柔軟に取り入れ、常に進化し続けられる点にあります。画面設計や機能の組み合わせ、日々のオペレーションのあり方まで、「こうあるべき」という固定概念に縛られることなくアップデートしていけるPMSです。
実際の運営を通じて「ここを変えたい」「もっとこうできたら」という現場の声をスピーディーに反映し、現場スタッフがより使いやすく、より早く本来の接客に集中できる環境を整えていきたいと考えています。
── 最後に、今後の目標を教えてください。
小野:今回のPMS刷新は、あくまで経営改革の「強固な基盤作り」だと捉えています。PMSが安定稼働し、現場の負担が軽減されたことで、次のステップへと進む準備が整いました。
今後は非対面チェックインやペーパーレス化など、現場から期待されている機能を順次導入していきます。より効率的で、スタッフがお客様に向き合える時間を増やせる未来を描いていきたいです。
また、旧PMSでは高コストで複雑だったデータ連携も、suitebookの高い拡張性によって、よりスムーズかつ低コストで実現できると期待しています。単なるシステム提供にとどまらず、私たちの経営戦略全体を理解し、共に未来を描けるパートナーとして、SQUEEZEさんには引き続き、深く伴走していただきたいです。
新井:ミナシアさんが実現したい「新しいホテル運営」、そして「人にしかできないホスピタリティ」に、伴走できるのは自分たちしかいないという使命感と自負を持って、これからも多角的なご提案、ご支援をしていきたいと思っています。SQUEEZE自ら日々のホテル運営で得ている知見やノウハウを惜しみなく発揮し、「進化し続けるPMS」を創っていくことは勿論のこと、システムやテクノロジーを活用することでミナシアさんのホテル経営変革の一助になるよう尽力していきます。
以倉:システムを導入して終わりではなく、これからが本当に課題を解決してより良い環境を作っていくフェーズです。ミナシアさんと共に、ホテル業界の新しいスタンダードを作っていけることを楽しみにしています。