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2021年8月27日号 特集 SDGsから新たなホテルビジネスを生み出せ!PART3:これからのムーブメント編

特別対談 ホテルレストラン業界における食品ロスへの取り組みは意識改革の次のステップへ

【月刊HOTERES 2021年08月号】
2021年09月03日(金)
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食のリサイクルやアップサイクルに期待が高まる

小泉 国も一歩踏み込んでもらえないかという話ですが、抵抗勢力があるのですか。

中村 地球規模での SDGsの意義と現状を考えますと、現場は推進していかねばならないことを理解しています。しかし、意識改革はできていますが、実際の大きな行動変容には至っていないのが現状です。それには今の個々のやり方から更に横のつながりをより強固に進めていく必要性が感じられます。

太田 専門家の委員会を作ってガイドラインを決め、守っているホテルやレストランを PRに活用できるようにする。そうすればこれを実施しなければだめでしょうという雰囲気に持っていけるのでは

中村 日本ホテル協会も SDGsの委員会を立ち上げました。各ホテルの頑張りだけではなく、日本ホテル協会のリーダーシップで今後どんどん加速していくでしょうが、ここでもやはり目標を掲げていくことも大切なことだと思います。

小泉 個から団体や業界へと広げていくということですね。今度、関係省庁が一堂に会する政府の食品ロス削減推進会議が開催されるのですが、そこで今日の話をします。すでにホテルではバイキングなし、品切れごめんなどの動きはあるよと。

 先日、知り合いの回転寿司屋の方に話を聞く機会があったのですが、回転寿司のレーンで回っている寿司は、一周回ってお客さまがどれも取らないと捨ててしまうケースもあるというのです。それを聞いてびっくりしました。考えられないでしょう。コロナ禍でお客さんの不安があり、衛生問題からそういう対応をしたと言うのです。現在は回転寿司だけど回さないでオーダーベースにしたそうです。さっきのバイキングの話と似ていると思いました。社会の変化と共に食のあり方も変えていくタイミングだと思います。

太田 多くの料理人の方はそのような思いを持っていると思いますが、ただそれが後押しがないだけで、そこがあれば次のステージに行けると思います。さっきのデニーズの場合はどのような形で持ち帰りをしているのですか

小泉 デニーズの場合はお店の中にポスターを貼ってくれて、お客さんに、まずは食べきりを推奨しますが、もしも食べきれなかったら「mottECO」といっていただければ容器をご用意しますという形です。帝国ホテルや日本ホテルも、もし食べきれなかった場合は「mottECO」と言っていただければお包みしますと伝えてください。環境省の「mottECO」ならお客さんも言いやすくなると思います。

 

太田 そのムーブメントを広めたいですね。帝国ホテルではレストランで食べ残したものの持ち帰りがいまも可能なのですか

杉本 現状では行っておりません。国連の世界環境デーに合わせて 1週間ほどトライアルした際には、お持ち帰りのバッグと袋を作り、衛生面でのリスクが少ないアフタヌーンティーのスコーンから始めました。

太田 でも、生の刺し身をお客さんが持って帰ると言ったら、ホテルとしては何かあったらどうしようと思うのは当然で、安全地帯にいないと心配ですから

杉本 われわれ自身に対する SDGsおよびリスクに対するマネジメントをしっかりしたうえで、一歩、二歩先に行けるのかなと思います。

中村 どうしても今の状況では慎重にならざるを得ません。一歩踏み出さなければならないことは業界全体が強く意識していることです。それがためにも業界での明確な規定が定められることが求められますね。その上で、日ごろ利用してくださるユーザーとの互いの共通認識をしっかり保ちあえることで、更なる進歩が得られると思います。私どもの日本ホテルでも持ち帰りは行っておりませんが、近々やらざるを得ないと認識しています。そのためにどうしたらよいかまさに様々な具体的な事柄を検討する段階に来ています。

小泉 自己責任ということは整理してあるのですが、それでもなかなか踏み込めないとすれば、さらなる後押しが必要ですね。貴重な意見ありがとうございました。

杉本 ホテル内の食品ロスに対する取り組みについては、肉でも魚でも最高の食材や貴重な部位を提供してご満足いただきたいと思っていますが、それ以外にもまだまだ美味しく食べられる部位がたくさんあります。例えば、鯛はフランス料理などでは、魚の骨やガラから出汁を取って煮詰めてソースにしますが、その出汁をとった後の骨をカリカリに焼いてパウダー状にし、われわれの技術を加えて旨味のある塩をつくり、料理に加えたりしています。

小泉 食品ロスをプラスに転換してますね。

杉本 このほかにもキャベツの周りの一番硬い部分や、ジャガイモの皮、飲みごろを過ぎてしまった赤ワイン、レモンやいちごのヘタなどから塩を作り、オリジナルの塩が誕生しました。これらはお客さまにきちんとご説明してご共感いただき、宴席のコース料理の一部にもご提供しています。今後は販売することも検討しています。これらは食品ロス削減の一環として生まれた商品ですから、売り上げの一部を環境保全のために寄付するなどビジネスと道徳を一緒に循環させたいと考えています。

小泉 ある方から聞いたのですが、アルマーニなどが地方で農家さんが生産した規格外の B級野菜などを使ってお菓子を作っているそうで、面白い組み合わせだと思いました。私の地元の横須賀、三浦はキャベツや大根の産地ですが、例えば農家さんが捨ててしまうキャベツの外皮が帝国ホテルで塩に変わることができれば、いままでつながりを感じなかった敷居の高いホテルと地方がつながると思います。商品化するにはロットが必要かもしれませんが、全国の農家さんに夢を与えられるはずです。

 

太田 中村さんのところでもいろいろ取り組んでいますね

中村 私どもの日本ホテルでは、毎日出る残飯の計量からはじめました。そして余った食材の有効活用です。例えばパン類は余ったものは以前は捨てていましたが、今では従業員に安く買ってもらったり、社員食堂に持っていきます。また、余った食材で、新たな商品開発に取り組んでいます。そこで最も大切なことは、通常の食材を利用したものより、いかにクオリティの高いものに仕上げるかが求められます。その基準をかなり厳しくし、一つの商品としての価値観が保たれることにこだわっています。要はお客様に納得と感動があってこそだと思っております。

小泉 いまのお話を聞いていると「食のアップサイクル」ですね。リサイクルはどちらかというとダウングレードするイメージを持つ人もいると思いますが、いまの話では食のアップサイクルができているなと感じました。

太田 そういうアイデアに関して環境省からアワードを授与するのはいかがでしょう。全国のホテル料理長の食品ロスアワードを作るなど。今日はホテルのトップシェフたちに来ていただいているのでメンタリティーは同じですが、まだまだそこまでたどり着いていない料理人もいます。このメンタリティーを変えていくために、もうあと一押し、二押ししていただきたいという思いがあります。
さて、今後はどのよう取り組みを考えられていますか。

杉本 これまで申し上げたことを形にして館内だけで取り組むことにとどまらず、外に発信することでなぜこれを商品化する意味があるのか、なぜこういった取り組みを行っているのかを伝えて広めていく活動にも力を入れていきたいと思います。

小泉 フランス料理のフォアグラやフカヒレなどは SDGs上どうなのか?という話が出ます。ニューヨークではフカヒレは出しませんなど。こうした動きにはどのように取り組まれますか。

中村 久しく以前、フォアグラはフランス料理の代名詞でしたが、いまはだいぶトーンが違い、日本での消費量も減ってきています。また、本鮪も以前はフランスの星付きレストランでブームになったことがありますが、今は資源の保護のために使わないということになりました。こうした様々な問題について料理人としても、また組織としてもしっかり認識した上で取り組んでいかねばなりません。

また、日本のフランス料理もだいぶ変わってきていまして、フランスからの輸入食材にこだわることなく、地産地消をモットーに日本の風土で育った日本の食材でしっかりフランス料理を表現しようという本来の料理のあるべきセオリーに則ったやり方が本流となってきています。

小泉 今日の話でホテル業界も動き出しているなと感じました。私が支援している福島県の中学校では、食を通して環境問題を考えてほしいという先生の思いから、週に一回、ベジマンデーとして植物性タンパク質だけの給食を出しています。また、学生と話をすると環境省の取り組みとして肉の消費を減らすことやビーガンを進めてほしいという声も上がります。ハンバーガーチェーンでも大豆ミートをつかった商品が出てきました。
ぜひ帝国ホテル、日本ホテルにはこれからも時代を引っ張る取り組みを期待しています。

太田 本日は皆さま貴重なご意見をありがとうございました。

 

杉本 雄 
Yu Sugimoto

1980年生まれ。千葉県出身。1999年に料理人としてのキャリアを帝国ホテルでスタートした後、2004年に退社し渡仏。フランスでは、ブルターニュのビストロを皮切りに、厨房だけでなくホールの接客サービスなどで研鑽を積む 06年には、1835年創業のパリの老舗ホテル「ル・ムーリス」にて、名料理人ヤニック・アレノ氏、アラン・デュカス氏のもとでシェフを務め、同ホテルのメインダイニング(3つ星)にて責任者の役割を担う。14年以降 2つのレストランで総料理長を務めた後、帰国。17年に帝国ホテルに再入社し。宴会調理課のシェフ経て、19年 4月、東京料理長に就任

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