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第8回 高桑隆「良くも、悪くも、大変化。いま日本の農業と『食』を考える」

第8回 高級生鮮食品を爆買い&eat inするアジア観光客、 大阪黒門市場に、国産農産物の可能性が見える

2016年05月12日(木)
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  柱を見ると、「飲食店営業許可」の保健所の許可証。奥のイートイン席は80席近い。時刻は午前9時半。ほぼ満席。焼き魚、ホタテの刺身、串焼き、マグロ寿司、ウニ、剥き牡蠣…。
 鮮魚店ばかりではない。現在4月中旬、イチゴの季節。八百屋さんの店頭では、高級イチゴが飛ぶ勢いで売れている。
「淡雪」と言う白っぽいイチゴをご存じか? 1箱2980円もするが、目の前でロシヤ人らしい毛むくじゃらの腕の男性が、白いイチゴ箱を4箱抱えている。
 その横では、「淡雪」の生ジュース。1杯1000円。インドネシア人らしき女性が、子供の分と2つ購入。
 肉屋の店頭では、松阪牛のステーキ、100gが3000円と表示。店主らしい男性が、鉄板で焼いている。
 その前に、およそ15人近い人々が行列。
“Where are you from?(どこから来ましたか?)”
“我是从上海来的(私は上海から来ました)”
 
 黒門市場は、加盟店150軒の歴史ある商店街。立地は大阪ミナミの繁華街に近く、東京で言う秋葉原のような日本橋電気街のすぐ近くだ。

インバウンドで大盛況の大坂黒門市場
歩き食いできるイチゴカップ500円

 近隣の住民だけでなく、ミナミの飲食店(千日前、道頓堀、宗右衛門町)の多くがこの市場で食材を調達する。これが高級鮮魚に強い店が多いゆえんである。
 ところが平成4年(1992年)、バブル経済崩壊。
 それまで、海老、カニ、河豚(ふぐ)、マグロが飛ぶように売れたミナミの飲食店街が、火が消えたようになった。
周辺は、再開発で住宅がどんどんなくなり、買い物客も減少傾向。だが4~5年前から、外人観光客が商店街にやってくるようになった。
 商店街振興組合の山本理事長が言う。
「4年前あたりから、アジア系観光客がぎょうさん来られるようになり、最初は対応にえらい苦労しました。何しろ、食習慣が違いますからね。買い込んだ高級魚・果物を、店先で食べたい言うンですわ…。
 そこで、保健所の許可をとって『飲食店営業許可』を鮮魚店にとってもらい、対応しましたところ、大盛況となりました…」
 以後、インバウンドに対応した商店街の施策を次々実施。無料Wi-Fi、無料休憩所、公衆トイレの増設。中国語、英語、韓国語の商店街情報パンフレットを、180以上のホテルに置いてもらった。
「次の事業年度に、無料休憩所とトイレを増設し、そこに『外貨両替機』を設置します」
 

鮮魚店を埋め尽くすアジア系観光客
ホタテやステーキを焼いて店頭で提供

  今、わが国を訪れる外国人(大半がアジア人)が、2000万人に達したと沸いている。
「円安」の影響などたかが知れている。真の原因はそれではない。
 地球の人口は70億人。パキスタンから極東の日本まで、このエリアに35億人が居住している。中国13億人、インド12億人、ASEAN(東南アジア)地域8億人、日本1億人を合計すると35億人となる。

 18~20世紀、世界の中心はヨーロッパや米国であった。しかし、米国の力は弱まり、欧州は難民やテロで揺れている。今、世界の中心はアジアに移りつつある。21世紀後半は、間違いなくアジアの時代なのだ。

 その35億人が、経済成長によって豊かになり、訪日での爆買や、農産物を自国に輸入し購入・消費しているのである。
豊かになった、アジアの人々のあこがれは日本。赤道直下に近いところに住む人々、彼らは日本の四季の美しさ、冬の雪遊び(スキー、スケート、スノーボード)、春の花見、秋の紅葉、そして四季を通じた美味しい食べ物に憧れを抱いている。

 それも安全で安心、そして清潔、裏道を行ってもゴミ一つない衛生的な街づくり。穏やかで親切な国民、トヨタ自動車やセイコーの腕時計を生み出す、ハイテク先進国でもあるNippon。その国に憧れ、平均10万円以上のお金を用意しながら、アジアの人々が押し寄せる。
フランスの外人観光客は、年間8300万人。米国は7000万人、スペインへ6000万人、中国へ5500万人、イタリア4800万人。
日本のインバウンド2000万人。世界観光地のランキングでは、25位に過ぎない。

 小渕内閣が提唱し、小泉首相が郵政民営化選挙で掲げた『観光立国』。その国家戦略は、まだ緒に就いたばかりだ。インバウンドによる経済効果、観光立国への道はこれから大きく広がっていくに違いない。
活況を呈する大阪黒門市場、混雑する商店街を歩きながら、国産食品、とりわけ日本農産物の大いなる可能性を再認識した次第である。


インバウンドで朝から賑わう黒門市場、「観光立国」が現実の姿になってきた

フードビジネスカウンセラー
高桑 隆
㈲日本フードサービスブレイン 代表取締役
Takashi Takakuwa
1950年北海道生まれ。神奈川大学経済学部経済学科卒業。74年、公開経営指導協会小売業通信教育「売場管理実務講座」文部大臣賞受賞。75年、㈱デニーズジャパン創業期入社。99年、㈲日本フードサービスブレイン設立。2000年居酒屋トレーニングセンター「長鳴鶏」を開店、脱サラ・独立開業支援。01年サッポロビール21世紀会(帝国ホテル)他、年間30回以上講演実施。02年法政大学にて「店舗独立開業講座」を開設、06年度第6期まで開講。04年服部栄養学園調理師専門学校で、フードマネジメント科目担当。05年産業能率大学非常勤講師に就任、ショップビジネス科目担当。06年桜美林大学非常勤講師に就任、フードサービス産業論担当。08年コンサルタント会館レストランマネジメントコンサルタント講座開設。

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