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第5回 「おもてなし」の精神とは何か~歴史に学ぶ接遇の極意~

第21回 名ホテリエ、それぞれの流儀:その3

【月刊HOTERES 2015年06月号】
2015年06月10日(水)
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一見、同じ高級ホテルであっても、そのサービス哲学、おもてなしの思想には、それ
ぞれ独自のものが存在した。かつての名ホテリエはことに女性客に気づかい、また、
ある名ホテリエは無我の愛の大切さを説いた。

◎文・富田昭次(とみた・しょうじ)
ホテル・旅行作家。近著に『ホテル日航東京 ウエディングにかける橋』、中村裕氏との共著で『理想のホテルを追い求めて ロイヤルパークホテル和魂洋才のおもてなし』(いずれもオータパブリケイションズ)がある。


ホテルプラザのパンフレット(筆者蔵)。独特の哲学があった経営者、鈴木剛が会長のまま亡くなった13年後の1999年に廃業、業界には大きな衝撃が走った。

ホテルはまず衛生的であるべきだ
 
 前回、リッツは、顧客の嗜好をよく理解していた、と記した。それは、顧客心理においても同じことが言えた。例えば、後述するように、女性がより美しく見えるように、照明に工夫を施した。これが女性客に好評だった。
 また前回、リッツは、高級ホテルの代名詞となった、と記したが、リッツは、きらびやかで豪華なホテルを目指したわけではなかった。マリー・ルイーズ夫人によれば、リッツは建築家のシャルル・メイウィスに向かって、こう言ったそうだ。
「Mine will be the first modern hotel in Paris; and it must be hygienic, efficient, and beautiful.」
(『César Ritz』前回参照)。
 意外なことに、贅を尽くしたホテルというよりも、パリでは一番モダンで、衛生的で効率の良い、それでいて美しいホテルを心掛けようとしたのである。
 では、衛生的とはどういうことなのか。当時の様子を、山田登世子著『リゾート世紀末』( 筑摩書房、1998 年)から見てみよう(なお原文はMark Boxer 編『The Paris Ritz』Thames&Hudson 発行、1991 年に掲載)。
「肺結核――もっとも伝染しやすい病気――にかかるのが怖ければ、ホテル・リッツにゆけばいい。全室が南に面し、大きな窓があって光をよびこんでいる。ベッドには覆いがない。窓のカーテンは白い薄地で、たびたび洗えるようになっている。白い壁にも、よく磨いた家具にも、いっさい埃ほこりの跡はみえない(以下略)」。
 この文は、ロンドンで発行された雑誌の記者が記したものである。
 なぜ、リッツが衛生面で力を入れたのか。前掲『リゾート世紀末』は、リッツがかつて勤務したニースのホテルは結核患者の療養の場になっていたことに触れ、「リッツは『衛生』こそこれからのホテルのキー・コンセプトであることを学んだのである」と述べている。
 ベッドの土台も真鍮製にして、清掃をしやすくした(筆者が宿泊した1996 年でも同様なものが使用されていた)。
 つまり、装飾性を重んじるよりも、常に清潔に保てる客室を目指したのである。

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