1996年オランダのアムステルダムで創業したBooking.comは世界最大級のOTAとして、ユーザーはヨーロッパ、アメリカなど2010年以来、約18億人超のゲスト数、掲載施設数は3,100万軒を有す。日本での展開は2009年からで、単なる媒介としてのOTAではなく、かねてよりユーザーの属性や傾向を分析、販売を行なうなど独自の価値を創出してきた。このほど、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)での企画イベントに合わせて、アジア太平洋地域担当マネージング・ディレクターのローラ・ホールズワース(Laura Houldsworth)氏が来日。世界の旅行市場と日本への旅行ニーズ、さらなるポテンシャルなどについて聞いた。
■まずはBooking.comの直近の業績についてお聞かせ願います。
US に上場しているのでオフィシャルな範疇になりますが、2025年第一四半期の売上額は48億ドルで、前年同期比8%増、客室泊数は3億1,900泊で前年同期比7%超。比例して、同期の総予約数も増加しています。
■ホールズワース氏は、アジア太平洋地域担当マネージング・ディレクターとしてアジア各地の事業成長、運営、戦略を指揮・監督もされているそうですね。日本の旅行市場について見解を教えてください。
近年、旅行人口特にインバウンドが急増しているのは何も日本だけのことではありません。COVID-19による渡航制限が解消されたこともあり、アジア全体で旅行市場が活況に推移しています。ただし他の国は比較的、自国内での移動(旅行)が高まっている中、日本に関しては旅行先および現地でのコンテンツが豊富として“訪れたい国ベスト5”に入っているのは特徴とも言えます。COVID-19後に高まったニーズの一つに「食の体験」のほか「食の歴史」「土地の文化と歴史」「ウェルネス」「サステナビリティ」が挙げられるのですが、これらすべてを備えているのは日本だけと言えるのではないでしょうか。各国から日本に訪れている理由は、これらのフックに基づいていると言えます。特に箱根、広島、金沢といったユニークなエリアは日本ならではの価値をもたらしており、さらに訪れたいニーズは高まると感じています。そうしたことから、日本を主眼にインドやオーストラリア、その他のアジア諸国全体を最も活気に満ちた地域の一つとして、注力していく構えです。
アジア太平洋地域担当マネージング・ディレクター ローラ・ホールズワース氏
■COVID-19以降、働き方の多様化が定着したこともあり、旅行の捉え方や宿泊施設の形態、滞在期間などが大きく変わりました。Booking.comで選ばれる宿泊施設や滞在動線など変化はありましたか。
いま旅行人口の中でも、二世代、三世代でのファミリー層が増加しています。またZ世代も含め、旅先でも普段と変わらず清潔で安全・快適な滞在を求める傾向は年々高まっていることから、現時点では大都市部へのニーズがまだ高いと言えます。帯同数が多いほど、滞在施設の形態はシティホテルよりもホームカテゴリ(居住性の高いサービスアパートメントや貸別荘やシャレーなどの1棟貸、民泊など)へのニーズが高まります。全3,100万軒うち約800万軒を占めるホームカテゴリは、年率9%増で成長しています。特に民泊においては各国の政府動向(規制による統制化)もあって、より安全・安心な宿泊施設が運営されていると感じており、これはポジティブな動きと捉えています。
また新しい旅動線を求めるニーズが増えていることから、2024年より、生成AIによるコンシェルジュ機能をサイトに搭載しています。「より自然な対話によるパーソナライズ旅行」や「リアルタイムな旅行プランニング」を可能にするだけでなく、検索されるWordや傾向から、属性によって求められる旅のスタイルを提案できるようになります。こうしたテクノロジーを駆使して、常にユーザーにアリティーを持った旅行をアシストしているのがBooking.comの強みとも言えます。
■今後の日本市場のポテンシャルおよび、人材の確保についての考えを教えてください。
世界中で人材の確保は命題ですが、弊社はデジタルプラットフォーマーという特質から、ホスピタリティー業に比べるとそこまでの重圧はありません。ただし、男性育休を含め男女問わず働きやすい環境、オランダのカルチャーが浸透している、女性のリーダーが多いなどどんな従業員も働きやすいように組織文化や制度を整えているのが特徴です。
また、日本にはユニークなコンテンツとして「旅館」「温泉」があります。Booking.comではいち早く旅館の紹介をスタートし、日本人でも見つけづらい各地の旅館や秘境宿を掲載してきました。こちらも年々上昇傾向にあります。
日本は目標インバウンド数を6,000万人と掲げていますが、東京など大都市部以外への送客が叶えば現在(2024年時点:約3,686万人)の2倍は到達できると感じます。2025年弊社が行なったリサーチで、少なくとも弊社サイトのユーザーは旅行に対するサステナビリティの指針が根付いていることが分かりました。文化的なこと歴史に触れることへの関心の高さから、80%がオーセンティックな文化に出会いたいと望んでおり、70%がサスティナブルに貢献したい、60%が没入感のある旅をしたい、50%が地域との共存を望んでいるという結果をかんがみ、これまでと比べてサスティナブルな旅を求める傾向が90%に達したとみています。そうした世界的なニーズに対しBooking.comは、革新的なテクノロジーを介して素晴らしい旅体験をアシストしていきたいと思います。
2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)オランダパビリオンで旅行事情を紹介
Booking.com の日本法人 ブッキング・ドットコム(本社:東京都渋谷区 )は、大阪・関西万博のオランダパビリオン会場にて「オーセンティックジャパン」を2025年 5月22日開催した。
同イベントには、全国の旅館施設関係者総勢80名以上を招待。旅行分野において、急成長する日本およびアジア市場、そしてインバウンド需要の高まりを背景に、世界中の注目を集めている日本の旅館が果たす役割やAIテクノロジーを活用して、個々の旅行者のニーズに応えていく提案に関するトークセッションが行なわれた。

Booking.com渉外部門最高責任者ピーター・ロックビラー氏と大阪・関西万博のオランダ外務省アイノ・ヤンセン氏
はじめに、Booking.com渉外部門最高責任者ピーター・ロックビラー氏と大阪・関西万博のオランダ外務省アイノ・ヤンセン氏が、オランダパビリオンでの訴求ポイントを紹介。地形上オランダは水害に悩まされてきたが、水と太陽のエネルギーを上手に活用して人々の生活の向上に尽力してきたという。また日本とオランダは国交425年という親交の深さも強調した。


第2部では、Booking.com 担当者をモデレーターに、山口県の「油谷湾温泉ホテル楊貴館」取締役 岡藤明史氏ならびに神奈川県の「ホテルおかだ」常務取締役 営業部長 原 洋平氏らが、老舗旅館を継続してきた苦難や長らく冷え込んでいた国内需要に対し、Booking.comによって多くのインバウンドが訪れ現在に至っているというドキュメントを報告。旅行者の3分の1はテクノロジーによって旅先に誘われているという状況を受け、Booking.comの向上した機能の一つ、旅前アクションに対しさらなる期待をにじませた。
第3部では、Booking.com プロダクト担当シニアディレクター アドリアン・エンギスト 氏が2022年から生成AIが活用できるようになり、インターネット上の旅行に関する投稿やガイドを基にした提案、多言語対応のリサーチ結果が得られるようになったことなど、これまで知られていなかった秘境なども発見できるようになったのは大きいという。「訪れたい場所が複数ある場合でも、各地で体験したい内容を入力するだけで、生成AIが実際のスケジュールを自動的に組み立て、一つの旅行プランとしてまとめてくれる現在、まさに世界中の旅行者がターゲットとなる“旅行経済”において不可欠なテクノロジー」であることを強調した。