【星のや東京】外観
東京都心の非日常の世界
「その瞬間の特等席へ。」をコンセプトに掲げ、各施設が独創的なテーマで圧倒的非日常を提供する「星のや」。そんな中でも「星のや東京」は日本の首都、東京・大手町の高層ビルの一角に建つ「塔の日本旅館」だ。2016年に開業。青森ヒバの立派な一枚板の扉が開いた瞬間、別世界が広がる。玄関には白檀の香り、縁台、畳の床が広がる。ここで靴を脱いで、非日常の世界へと誘われる。地下2階、地上17階の塔に客室は84室。14フロアある各客室階には、6室の客室があり、各階が独立した小さな日本旅館をイメージしている。
【星のや東京】客室 菊(ダブル)
江戸文化の粋とモダンが融合した「塔の日本旅館」
客室は伝統的な和室で、日本の歳時記に合わせた室礼、日本文化を肌で感じる’’ザ・ニッポンそのもの。建物の外観は江戸小紋の「麻の葉くずし」柄の格子で覆われているが、部屋の障子を開けると、美しい格子柄越しに大手町のビル群が広がる。その眺めに「星のや東京」の粋の世界を感じる。各階には共有スペース「お茶の間ラウンジ」が備えられているが、この場所に実は滞在中の楽しみが詰まっている。お茶やお菓子を楽しんだり、時には仕事したり、客室の延長上にあるリビングルームのような空間だ。滞在中、スタッフがドリップで丁寧に淹れてくれたコーヒーなどを頂いた。またここでは日本の伝統文化に触れる特別な時間、粋な趣向を用意していて、私が滞在したときは梅雨の時期を楽しむための「香りの体験」だった。
実は「星のや東京」には私が秘かに「sanctuary」と呼ぶ場所がある。最上階にある天然温泉「大手町温泉」の大浴場だ。地下1500メートルから湧き出る塩分濃度の濃い上質な泉質で、身体が芯から温まり、肌がしっとりすべすべになる。内風呂とその奥に露天風呂があり、吹き抜けの天井から昼間には真っ青な空が広がり、暗くなると星々が見えることもある。これが本当に東京?と誰もが感動する温泉だ。隣りのラウンジには牛乳が用意されていて、海外から来たゲストたちがお風呂上がり、「星のや」と描かれたうちわを片手に牛乳をうれしそうに飲んでいた。海外のセレブリティたちからも注目されていて、旅慣れたトラベラーからも高い評価を受けている。
「世界のベストホテル50(The World’s 50 Best Hotels 2023)」や米国の富裕層向け大手旅行専門誌「コンデナスト・トラベラー」によるホテルアワードでも多数の受賞を誇る。
【星のや東京】温泉_内風呂から露天へ

【星のや東京】総支配人 池上真敬氏
「ここは日本旅館の位置付けということもあり、各フロアにある“お茶の間ラウンジ”の存在がかなり重要だと考えています。ここでスタッフのホスピタリティや日本の伝統文化などに触れて、心からくつろいでいただくという役割の場所なんです」と語る、星のや東京 総支配人 池上真敬氏
遠出せず、都心で心身を養生させる
2023年11月から新しく就任した総支配人、池上真敬さんにお話しを聞いた。「ここは日本旅館の位置付けということもあり、各フロアにある“お茶の間ラウンジ”の存在がかなり重要だと考えています。ここでスタッフのホスピタリティや日本の伝統文化などに触れて、心からくつろいでいただくという役割の場所なんです」。時期にもよるが、現在、海外のゲストの割合が8割ということもある。でも池上さんは「もっと日本のみなさまにも体験して頂きたいですね」と話す。「実は1年半にわたって、ダイニングを利用された日本のお客様にお話しを伺いました。都内の方が多く、遠出せず非日常を楽しめ、美食も温泉を満喫できるのが魅力だとおっしゃっていました」。
私自身も、こんな魅力的な天然温泉があれば、もはや地方の温泉地に行く必要はないだろうという思いに至った。またダイニングのレベルがとんてもなく高いので、最上級の温泉と美食を同時に楽しめる、日本でも屈指のオーベルジュでもある。
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文 :ホテルジャーナリスト 松澤壱子