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スマイルホテル熊本水前寺

“ボランティア” ではなく自分たちの成長機会をいただいている。 「人づくり」でホテル再生を実現した代表が被災者の無料受け入れを開始した理由

2020年07月10日(金)
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7月4日の23時12分、スマイルホテル熊本水前寺は同ホテルのFacebookページを通じて、先の熊本県南豪雨で被害を受けている地域の被災者を同ホテルで受け入れられる限り無料で宿泊および食事を提供することを公表した。この投稿は多くの人々の共感を得てシェアなど拡散が広がっているが、同ホテルの代表である嶋田真也氏は、この取り組みは人のためではなく「自分たちのため」と語る。その真意とは。(レポート:岩本 大輝)
 

7月4日に熊本県南豪雨から被害が拡大する九州豪雨は、熊本県だけでなく九州を中心に多くの被害者を出している。その豪雨が被害を出し始めた7月4日の夜23時12分、スマイルホテル熊本水前寺は同ホテルのFacebookページを通じて、先の熊本水害で被害を受けた地域の被災者を同ホテルで受け入れられる限り無料で宿泊および食事を提供することを公表した。



この投稿は多くの人々の共感を得て7月10日午前7時時点で1188件のシェアがなされており、大反響と言えよう。ところが、同ホテルの代表である嶋田真也氏は、この取り組みは人のためではなく「自分たちのため」と語る。


ホテルは4カ月赤字続き。それでも決意した理由。
「ボランティアではなく、自分たちのため」

 
新型コロナウィルスで人々の生活は大きく影響を受けていた。それに重なるように、今回発生した豪雨。被害者の情報がニュースなどでどんどん入ってくる。嶋田氏は、そうした被災者の人たちのために何かができないかと考えていた。しかし、一方で葛藤もあった。
 
今回の豪雨以前から日本の多くの宿泊施設が新型コロナウィルスの影響で大きなダメージを受けている。スマイルホテル熊本水前寺も例外ではない。今年に入り3月から4カ月連続で赤字が続いている。
 
「これ以上赤字額を増やしてまでやるべきなのか…」
 
経営者として悩む。しかし、近くに被害を受けている人がいる。停電で暗い中怯えながら過ごしている人がいる。そうした情報がどんどん入ってくる。思いは止められなかった。
 
嶋田氏はスタッフとのグループLINEに、「自分のわがままなのだけれども…」と、受け入れのアイデアを共有した。すると、すぐにスタッフたちから「やりましょう!」と返ってきた。そして、決断。そしてすぐ後の23時12分に同ホテルのFacebookページに今回の支援の表明が投稿された。
 
--
 
被災に遭われた皆様へ
 
昨夜の被害に見合われた、人吉 八代 芦北 地区の皆様へ今、私どもホテルが出来る宿泊とは現状も地区一帯で停電を余儀なくされ、暗い街中で過ごされている皆様。
私どものホテルでは、お部屋の数に限りはございますが、出来る精一杯のおもてなしをさせて頂きます。
数日間では御座いますが、宿泊を『無料』にてご提供させて頂きます。
お子様、お年寄りの方を優先させては頂きますが、「こちらのFBを見た」とお電話にてご連絡下さい。
大変微力では御座いますが、私達は皆様に笑顔をご提供させていただき、少しでも皆様のお力添えとなるならば、こんなに嬉しい事は有りません。
※なお、ご予約のお電話にてご事情をお伺いすることがございます。ご容赦くださいませ。
 
ご連絡先
電話 096-383-8410
住所 熊本県熊本市中央区水前寺1丁目2-20
スマイルホテル熊本水前寺 スタッフ一同
 
--

 
この投稿が大きな反響を呼んだ。SNSでまたたく間に拡散され、問い合わせの電話もすぐにあった。
 
一見すれば豪雨で苦しむ近隣エリアの人たちを助けたいという思いからの行動に見える。
しかし、嶋田氏はこれを「自分たちのためなのです」と話す。
 
 
向き合うこと。
それによって自身の考え方の枠を外す。
 
少し話を過去に戻させていただきたい。
 
嶋田氏がこのホテルの代表となったのは2014年。
「人が好きだから」という理由でそれまで飲食店を複数経営するなどしていたが、「より誠実に人に向き合う仕事がしたい」とスポンサーを見つけ初めてホテル事業に参入した。
ただ、その当時のスマイルホテル熊本水前寺は、「ホテルSLOW水前寺」という名前の、築39年の、稼働率が40%ほどしかない、赤字のホテルだった。
嶋田氏は着任後、それを2年で稼働率約70%にまで改善。売り上げも2倍にした。
 
築古のボロボロのホテルをどのように再生させたのか?
したことはたった一つのこと、「人に向き合い、育てる」ということだった。
 
嶋田氏は、ホテルに関わってすぐに違和感を感じることがあった。
 
「コミュニケーション能力が不足していると感じたのです。マニュアル通りの対応はできますが、お客さまに応じて融通をきかせるとか、応用的な対応ができなかったのです」
 
想いを伝えるために、スタッフ一人ひとりに向き合った。
そして、“考え方の枠”を変えさせた。
ゲストの目線に立って考える。そうすることで、ゲストへの言葉のかけ方、質問も変わってくる。
 
「面倒くさいと思っていたことを面倒くさいと思わないように考え方の枠を変えさせます。『できる・できない』の枠を外すのです。そして、お客さまに向き合う。ちゃんとお客さまと向き合える人は質問力があります」
 
チェックイン前、スタッフはゲストの予約時の情報を見て、考える。
 
−連泊のお客さまであればこのようなお部屋がいいのではないか。
−家族連れならこれをお部屋に入れておいた方が良いのではないか。
 …etc.
 
そして、ゲストが到着時に質問をする。
 
「このようなお部屋をご用意させていただきましたが、よろしいでしょうか?」
 
ゲストは、「そこまで考えてくれたのか」と感動する。
喜ばれるから嬉しくなり、さらに一生懸命考えるようになる。それが周りのスタッフにも広がり、取り組みが加速していく。
 
「お客さまに向き合うことで、成長できるのです」
 
今回の被災者への宿泊の無償提供も、成長の機会だと考えている。
 
「早速いくつものお問い合わせをいただき、お迎えを開始しています。例えばその中に、ご高齢の、酸素吸入器をご使用の方がいらっしゃいました。私たちとしては初めての経験です。医療機関にも連絡をしながら、どのようにご滞在いただくかを考える。それによって私たちも成長できます」
 
「人が人に寄り添う技術というのは、経験でしか得られません。私たちはこのような経験を“させていただき”、その結果、成長できているのです」
 
また、希望する人すべてを受け入れられるわけではない。
告知内容にも、「※なお、ご予約のお電話にてご事情をお伺いすることがございます。ご容赦くださいませ」とある。
 
スタッフは、問い合わせをしてきた相手の状況を聞きながら、自ホテルの予約状況、さらに、客室だけではなく朝食・夕食を提供するホテルである分、現状の赤字状況と向き合いながら、どこまで受け入れられるのかを自分たちで考える。そうした経験も、成長につながる。
 
 
ボランティアは自己満足
 
「少し大げさな言い方かもしれませんが、ボランティアというのは自己満足だと思っています」
 
それは、嶋田氏の経験からの言葉だ。
 
2016年に熊本地震があった時、嶋田氏は翌日からすぐにボランティア活動を開始した。最初は声をかけあって集まった6人から。だが、それが多くの人々の共感を得て、人がどんどん集まってきた。また、その活動を応援しようと全国から110トンもの救援物資が寄せられた。
 
そこで、嶋田氏は気づいたことがあった。
ボランティアとして多くの人が集まってくるが、そこに寄せる想いが重要だと。例えば、炊き出しでも「俺らがやってあげているんだぞ」という態度でボランティアをしている人がいると、被災者の方も受け取ってくれなくなる。
 
あくまで自分たちのため。「させていただいている」と考えないといけないのだと。
 
だからこそ、嶋田氏は今回の無料宿泊および食事の提供も「自分たちのためなのです」と言い続ける。
 
人に向き合うことで成長をしてきたスマイルホテル熊本水前寺。
それを表すように、立地は決して良いとは言えず、築45年を迎えたホテルでありながらも、ゲストコメントはスタッフの対応を中心に評価が高い。

 
--《以下、予約サイトの口コミより》--
「約20年、熊本市のホテルに定期的に滞在していますが、このホテルを知ってからはリピートしてます。
このホテルの応対品質の良さは女性が組み立てているのか、それとも女性の中にキーマンがいるのか、など考えながら、良かった点を業種は違っていても参考にしています。」
 
「フロントの接客は丁寧で感じが良く好感が持てました。」
 
「ホテルの名前と同様に笑顔を大切にしているホテルだと思う。」
 
「フロントの方の対応がすごく感じよかったです。」
 
「スタッフの方は皆さんとても挨拶が素晴らしく対応も良かったです。お世話になりました。m(__)m」
 
…etc.
 
--《以上、予約サイトの口コミより》--

 
 
人に向き合い、人の成長によって築き上げられてきたスマイルホテル熊本水前寺。
今回の無料宿泊の提供は多くの人々の共感を得たが、それは決して偶然生まれたものではなかった。自分たちのビジネスに真剣に向き合ってきたホテルチームだからこそ実現できたことであり、こうした活動一つひとつを通じて、またホテルとスタッフが成長していくのだろう。
 

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