村上明穂氏
講演2
「21 世紀におけるホテルゲストと
これに応える新たなホテルへの胎動」
GA Design 村上明穂氏
バラエティーに富むホテルの急増が
デザインの重要性を裏づけている
「多くのホテルは20 世紀末以降の過去20 年間、機能に主眼を置いたタイプから、インテリアアーキテクチャーやデザインへとその軸足をシフトさせてきました」と村上明穂氏は語った。経済の発展とともに訪れたビジネスホテルのブーム後、1980 年代半ばから後半にかけて目立った動きを見せたのは、細部にこだわりを持つブティックホテルの台頭だった。バラエティーに富むホテルデザインが急激に増え続ける最近の傾向は、デザインの重要性を物語っていると見ることができる。その背景には容易に旅行ができるようになったこと、膨大な情報に簡単にアクセス可能になったことがある。
数多くの新たなホテルが市場に参入することで、競争上よりよいホテルを創っていく必要性が高まっている。そしてそのことが、新鮮な感覚を持つデザイナーの参入を促進している。同時に新たな血とも言えるアントレプレナーが意図するホテルを創り上げるためにも、ハイブリッドデザイナーによるクリエイティブチームが求められるようになった。
「建築やインテリアデザインは、他のホテルでは味わえないような経験とファンタジーをもたらすテーマを創造することが求められています。21 世紀を生きるゲストは、モダンデザインと創造性に富んだホテルを渇望しているからです」
こうした時代のニーズに対応するために、ホテルデザイナーは進化する技術革新時代に順応し、従来の観念にとらわれることなく、ゲストの個別の望みや好みに応えられる発想でデザイン提案を行なうべきだと村上氏は提言する。
ポイントはスタイルや色彩だけでなく
ナラティブ(物語)な表現による相互理解
「コンテンポラリーホテルのインテリアデザインの転換点において重要なポイントはスタイルや色彩のみならず、密やかに取り込まれたナラティブの思想だと考えます」
その具体例として、GA Design も参加した台北のWホテルのプロジェクトがある。ホテルオペレーターのデザイン担当部署から、デザイナーが手を動かす前に、周辺地域の歴史、社会的な背景、特有の美術芸術など、土地の文化に対する認識を深め、それを文言で表現することが求められたのである。その過程を経ることでオーナー企業、オペレーターをはじめとするプロジェクト関係者全員が同じ認識に立ち、同意を得た上でコンセプトデザインに着手できた。
「手を動かすところから入りたがるデザイナーにとっては、いささか戸惑いがあるやり方でした。ところが言葉を使って現地に対する私たちなりの感じ方、捉え方を何度か提示し、議論を進めていくうちに、お互いの理解の度合いを深めることができたのです」
こうした流れからこれからのホテルデザインを考えてみると、リピーターを獲得できるホテルの環境デザインには、表層的なコスメティックな要素ではなく、好ましい空気がそこはかとなく感じられる心地よい空間構成がより重要になると村上氏は見ている。また、ホテルが建つ土地が持つ固有の力は、無視できない要素となる。
その上で現在のホテルデザインの傾向を一言で言い表すとするならば、カジュアルでありながらもエレガントなデザインが主流と言える。最後に村上氏は「デザイナーとプロジェクトオーナーの関係は、イコールパートナーであると認識すべき」と述べた。その感覚を持たない限り、プロジェクトの完成に支障をきたす可能性が高まるという危機感を持っているのである。