tangerine 石原祐一氏
講演3
「ブランドとビジネスを牽引し、革新的エキスペリエンスを生むイノベーション−航空機
のインテリアからポータブルホテルまで」
tangerine 石原祐一氏
イノベーション、ストラテジー、デザイン
の三本柱が魔法をかけてくれる
デザイン上の試みを進める上でキーファクターとなるのは、「ナンバー」「スペース」「プライス」だと石原祐一氏は言う。プライオリティーはプライス重視なのかスペース重視なのか。それぞれの価値基準によってバランスを取った上で競争していくことになる。それが一般的な考え方だ。でももしも、数、空間、価格のすべてをハッピーにする方法があるとしたらどうだろう。しかもしっかりと利益が出せるとしたら?
「そんな魔法のような話を実現するためのツール、それはイノベーション、ストラテジー、デザインの三本柱です」
その魔法をかけた事例が紹介された。ブリティッシュエアウェイズのビジネスクラスで展開された、クラブワールドのプロジェクトである。従来のビジネスクラスの座席はフルフラットをうたいながらも、実際には少し傾いていた。完全に水平にすると座席間のピッチが広がり、必要な収益を上げるための座席が空間に収まらなくなってしまうからだ。それでもカスタマーは体を水平にして眠りたいし、自分の空間も確保したいと願っている。この綱引きに対してtangerine が出した答えが、まったく新しい発想の座席レイアウトだった。肩幅の部分を広く、脚の部分を狭くした座席同士を互い違いに組み合わせたのである。
不可能と思われていた2つの要素を両立。個々の空間の快適性を保ちながら、以前は6座席だった一列に、8座席を入れた。5年で回収予定だったプロジェクトに対する投資額は、わずか1年で回収したという。
私たち全員がゲームチェンジャーに
なることが求められる時代に突入
ホテルを造る場合、ロケーションとプライスの間で綱引きが起こる。そのジレンマを解消する魔法がかけられた新感覚のホテル、スヌーズボックスは、音楽フェスやF1など、何日間も山奥のような場所で開催されるイベント会場のすぐ脇に、忽然とホテルが出現するという発想から生まれた。移動式ホテルの開発においてネックとなったのが、デリバリーと設営のスピードの問題だった。設営時間の短い簡易的な建物では、クオリティーが下がってしまう。スピードとクオリティーの綱引きが始まった。tangerine はその問題を解決し、わずか24 時間で100 室のホテルを、陸地であれば世界中どこでも建てることができるシステムをデザインしたのである。
トレーラーで運ばれてくるスヌーズボックスの部屋の広さは7.2㎡、ほぼ四畳半のスペース。けっして広くはない空間を、いかに狭く感じさせないか。それも大きなポイントとなった。日中はソファーと書物机。夜になったら壁に隠れていたベッドを引き出してツインルーム。2つのベッドをくっつければダブルルーム。さらに上部からもベッドが出てきてトリプルかワンシングル、ワンダブル。さらに上部にももう一台で、一部屋最大4人まで対応できる。インテリアについても、カラー、マテリアル、グラフィックなど、細部にまでこだわり抜いた。
「今、マーケットの競争の形が変わってきています。プロの側から見れば、新しく参入してくる人たちは新しいチャレンジャーです。そのチャレンジャーに対して、専門の世界で仕事をしてきたプロはさらに挑んでいかなければなりません」
一人で試合の流れを変えることをする選手をゲームチェンジャーと呼ぶ。今、私たち全員がゲームチェンジャーになることが求められる時代に突入しているのだ。