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【エンタメIR】連載「HOTERES Entertainment!」

withコロナ、afterコロナの観光業界を救うエンターテインメントの力

【月刊HOTERES 2021年01月号】
2021年01月29日(金)
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早稲田大学大学院
経営管理研究科教授・ 早稲田ビジネススクール
アソシエイト・ディーン
池上 重輔 氏


新型コロナウイルス感染の第三波、コロナ分科会による GoToトラベルの停止要請など観光業界に厳しい時間が続いている。 その中で観光業界が生き残りを図るにはどうすればよいのか?そこでエンターテインメントの側面からの見解を早稲田大学大学 院経営管理研究科教授の池上重輔氏に伺った。

取材・構成 毛利愼/文 飯野耀子

■情緒的価値を求める時代 

 昨年、全世界を振り回したコロナ禍によりわれわれの生活スタイルは大きく影響を受け、行動も制約されました。苦しい経営を 余儀なくされている企業もあり、不自由な生活をしている方も多いです。しかし、基本的な衣食住は満たされ、社会も比較的安定していました。この経験はわれわれがものごとに求める価値の優先順位を機能的価値から情緒的価値へ変える流れを加速させるのではないでしょうか。

 観光やエンターテインメント(エンタメ) 業界は短期的に苦しいのですが、ここをサバイブできれば中長期的には価値観の変化を背景にして成長産業になると思います。特にエンタメ業界は新たなメディアやフォーマットがどんどん誕生し、小資本でもビジネスチャンスは増えています。当たり外れはありますが、若い人がより活躍できる産業になりそうです。

 海外に活躍の場を求めるのも有りです。現在は渡航制限など物理的な移動が難しくありますが、発信はSNS やインターネットを介せばどこにいてもできる。そういった意味では瑛人の「香水」が新たな成功モデルを見せてくれたのではないでしょうか。

 レコー ド会社にも芸能事務所にも所属していない無名のシンガーソングライターによるデジタル・ディストリビューション・サービスを活用した発信が「TikTok」という一 SNSメディア内で“バズ”り、紅白に出場するまでに認知も人気も広がった。当初は比較的若年層ユーザーの多い「TikTok」市場という、ある程度世代が限定された中での支持だったかもしれません。

 しかし今や世代を広げ世界中の“ああいったテイストが好き”という人たちから支持を得ている。その証拠に彼の楽曲は海外でもカバーされ、YouTube などに多数の動画が上がっています。大資本の企業だけでなく、一個人も大きな市場を切り開けるようになってきたのです。とても面白い時代になったと思いますね。


■ビジネスチャンスをどこで見出すのか

 エンタメの仕組みは「内容」「媒体」「主体(プレーヤー)」「収益モデル」の主に四つのファクターで成り立っています。この中 で「内容」「媒体」についてはジャンルもバリエーションもどんどん増えている。それに伴い「収益モデル」も増えていますし、主流となるものが変化しています。

 音楽を例にとれば媒体は富裕層のためのライブからレコード、カセットテープ、CD そしてオンラインになり、SNS を含めたオンラインとライブが併存するようになってきました。収益モデルも個別に対価を支払う既存のものに加え、サブスク、フリーモデル、等選択肢が広がりました。コロナでコンサートやアミューズメント施設など体験型モデルで成功していたエンタメコンテンツは一時的に打撃を受けましたが、現在では VR や動画配信など遠隔でも経験価値を提供できる方法論がたくさん出てきていますし、これからさらに進化するでしょう。

 このようにビジネスチャンスは広がっており、トライ&エラーで展開しやすくなってきています。観光業界もエンタメの手法を参考に、収益の多様化を図るべきですね。例えば自然の豊かさが観光資源である地域にある施設であれば、その移り変わりを毎日配信して癒やしの空間を提供する。そこにゲーム性を持たせるのも一つです。

 さまざまな方法で配信を行なってみることでデータ を蓄積することができますし、それらは after コロナの魅力開発にも大いに役立つことでしょう。今は少ない投資でツールの準備もできますし、受け手側のネット環境も整ってきていますから後はいかにそのチャンスを生かすのか。それは発想次第です。

■虎の尾を踏まないためのリスクヘッジ

 ところで、安価で比較的容易にコンテンツを世界発信できることにはリスクもあります。多くのネットユーザーは、投稿先の世界がいかに広く、大きいかについて意識していない。よく炎上という言葉を聞きますが、個人が無邪気に発したツイートが数時間 のうちに世界中にリツイートされネットリンチされた結果、その後の人生が狂うことも珍しくありません。またデジタル・タトゥーという言葉があるように炎上事案は半永久的にネットの世界に残っていく。それが国際政治的な虎の尾を踏むケースであれば個人であってもサイバーアタックを受けますし、そこからさらなる問題が派生することもある。企業がそれを踏んだ場合、事態はさらに深刻です。

 エンタメ業界で言えば、2014 年に起きたソニー・ ピクチャーズエンターテイメント(SPE)に対する北朝鮮からのサイバー攻撃が有名ですが、その際ソニーは従業員のみならず家族の個人情報や従業員間のメールのやりとり、役員報酬に加え映画の未公開情報までハッキングされる事態となりました。さらにこの問題はオバマ大統領まで巻き込んで、一企業の問題から国家レベルの問題にまで展開してしまいました。また先日 BTS の発言に中国のネット民が反応した結果、経済問題に発展したケース もネットのリスクでしょう。エンタメはソフトパワーの源泉になる分、地政学(国家関係)に気をつけていないと予想もしない大問題に発展します。

 エンタメ業界は意外とサイバーセキュリティーについて危機感が薄いのか、大企業でも虎の尾を踏んでいるケースが少なくないようです。しかし、時代は個人も企業も地政学とサイバーセキュリティーを注意しないといけないフェーズ に突入していますから、改めて意識変革と対策を急いでほしいです。

■インバウンド回復後の“日本”は世界で有利なポジションに!

 ところで日本の観光業界については今後、世界的にインバウンドが回復した際にとても有利なポジションを得る可能性が高いと見ています。COVID-19 以降は旅行先選択において Safety(安全)、 Security(安心)、Cleanliness(清潔)といった要素を重視するという消費者心理調査があるのですが、世界の旅行者の間で伝統的にその SSC に卓越性があるというイメージが日本にはあ ります。

 ブルームバーグ COVID レジリエンス(耐性)ランキン グで日本が世界 2 位となっていることでその位置づけも強化され るでしょう。これは経済規模が 2000 億ドル(約 20 兆 9100 億円)を超える 53 の国・地域を 10 の主要指標に基づいて点数化した中での順位で、比較的信頼性の高いランキングです。ですから 20 ~ 30 年に一度の Destination Marketing(観光地マーケティング) の好機が訪れると予想しています。

 ただチャンスとリスクは隣りあわせなので、現在は国内需要で足固めをし、将来的に地域ごとに最適な国内・インバウンドのバランスを再考する好機でもあります。先述しましたが、国内需要の足固めにエンタメ要素を活用することは非常に有用です。観光業界の皆さんにはぜひ、そのことに注目していただきたいと考えています。 個人レベルの準備で言えば、外国人向けの観光ガイドをすると国際性と語学力を磨きつつ、日本に関する教養を深めるチャンスで、これを通じて海外発信のヒントが生まれるかもしれません。




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