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こころに響く“和”の再構築 ― ハイランドリゾート ホテル&スパ 早川社長インタビュー「『こころぎ』再生の舞台裏」

こころに響く“和”の再構築 ― ハイランドリゾート ホテル&スパ 早川社長インタビュー「『こころぎ』再生の舞台裏」

2025年10月03日(金)
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こころに響く“和”の再構築
― ハイランドリゾート ホテル&スパ 早川社長インタビュー「『こころぎ』再生の舞台裏」

富士急ハイランドのオフィシャルホテルとして1986年に開業した「ハイランドリゾート ホテル&スパ」。40周年を迎える節目の2025年9月5日、館内和食店「こころぎ」が大幅リニューアルで再始動した。狙いは“館内レストラン”を超え、「ここで食べるために泊まる」目的地化。その意思決定の背景、内装・メニュー・サービスの刷新点、そして“地域共創型リゾート”としての未来像を、早川社長が語る。
 
富士山の麓で40年、需要の質が変わった
 
まずホテルの現状からお聞かせください。

当館は1986年3月に開業し、客室は163。2007年には温浴を整備して『ホテル&スパ』としての価値を強化してきました。富士山を間近に望むロケーションと、富士急ハイランドとの連携が当館の独自性です。ここ数年はインバウンド比率が明確に上がり、コロナ前に約23%だったところが、2023年には35〜38%、2024年は約46%に達しました。ADRもコロナ前比で3割ほど伸びています。一方で、遊園地を主目的に来館される国内ファミリー、若者グループ層は相対的に減少し、宿泊需要の『質』が変わってきた実感があります。
 
「こころぎ」再生の意図
“受け皿がない”に応える
 
2025年9月5日の『こころぎ』再始動に至った背景は。

「こころぎ」は2002年に一度刷新しているのですが、施設の老朽化や嗜好の変化を踏まえ、2023年から再リニューアルを具体化させました。インバウンドの回復傾向を見ながら、近隣エリアの供給や価格帯を改めて調査すると、『上質な和食を落ち着いて楽しみたいのに、ちょうど良い受け皿がない』という声が多くありました。そこで“館内の一食”ではなく、“ここで食べるために選ばれる”和食を目標に据えたのです。

中核は「地産地消食材×創作和」
価格改定も“目的地化”のため


メニューや価格、内装の要点を教えてください。

従来は1万円弱の懐石中心でしたが、1万5千円〜2万円の高級和食へとレンジを引き上げました。中核は旬な地産地消食材活用×創作和食です。富士山エリアらしい素材感と現代性を両立させ、“五感で楽しむ和食”を設計しています。近隣市場には1.8万円帯の上位価格帯も見えており、当館としては“価格だけで勝負しない”ストーリー設計が重要だと考えました。
空間は富士山を想起させる要素を随所に織り込み、火・水・木・緑といった自然のニュアンスを抽象化。炭火台を視覚的な核に据え、個室も落ち着きと余韻を大切にしています。

“サービスが肝”
外国語対応と「気配り・目配り」の再訓練


サービス面のアップデートはありますか?

サービスが肝です。料理の説明力、所作、間合い、テーブルまわりの視野を広げるトレーニングを再設計しました。インバウンド対応は言語だけでなく、文化的背景への理解も含めた“体験の翻訳”が大切です。日本語・英語でのご案内整備はもちろん、予約前後のコミュニケーション品質も見直しています。きめ細かい“気配り・目配り”を、全ての接点で再現性高く提供することにこだわっています。

グループ全体像の中で
「ラグジュアリー化」を牽引
 
富士急グループの中での役割は?

当館は富士山という世界級のアイコンを背に、ラグジュアリービジネスの牽引役を担います。遊園地・ホテル・温浴・アウトドアなど多面的なアセットをつなぎ、上質な滞在の“核”をつくっていきます。『こころぎ』の再生は、その象徴です。上位路線の磨き込みを通じて、グループ全体の“格”をさらに引き上げていきます。
 
受け身から“攻め”へ
海外セールスと直販の再強化
 
インバウンド戦略と販売の見直しについて聞かせてください
 
2022〜24年は“押し寄せる需要”を丁寧に受け止める局面でしたが、今後は能動的に海外へ届けるフェーズです。国・地域別の嗜好に合わせた発信を強化し、旅行の動機づけとして“食”を前面に出します。同時に、直販比率の向上を最重要テーマに置いています。OTAに頼るだけでは価格と可視性のゲームに呑まれやすいので、指名予約を獲得できる“目的の設計”、つまり『こころぎで過ごす夜のために、ハイランドリゾートを選ぶ』という構図を積み上げます。
 
“地域共創型リゾート”としての次の一手
 
最後に、読者へのメッセージをお願いします。

『こころぎ』は、地域の“和”を現代に再編集する場です。炭火の香り、器の手触り、静かな間(ま)――そのすべてで“ここに来た意味”を感じていただきたい。受け身で需要を待つのではなく、選ばれる理由を自ら設計する。富士山エリアの資源を“宿・食・体験”で束ね、地域とともに価値を高めていく。ハイランドリゾートは、そんな“地域共創型リゾート”の実装に、これからも挑み続けます。


編集後記
取材を終えて、あらためて痛感したのは、ホテルにとって飲食こそが顔であり、思想の翻訳装置だということです。客室は売上を、レストランは“理由”をつくる。記憶に残る一皿が、そのホテルの価値を最も強く語ります。一方で、いま日本のホテルは町場のレストランとの乖離が広がり、便利さと価格訴求の前に“ホテルで食べる必然性”が薄れている。放置すれば、「滞在の中でホテルで食事を楽しむ」という文化そのものが痩せ細る——この強い危機感をここで共有します。
その意味で、「こころぎ」の挑戦は希望です。“館内の一食”を超えて“目的地の一夜”へ。旬な地産地消食材×創作和食という明快な核、サービスの再訓練、そしてグループ資産(温浴・パーク)と結んだ体験設計。これは、地方リゾートがもう一度“食”で主導権を取り戻すための具体的な設計図になりうる。
私は編集長として断言します。ホテルが夕食に強くなれば、旅の記憶は一段と豊かになる。私たちはこの動きを継続的に追い、現場の知恵を伝えていきます。ホテルで食べる歓びを、もう一度当たり前にしていきましょう。「こころぎ」の次の一手に、心から期待していますし、他社の取り組みも積極的に追っていきますので、皆様お気軽にぜひご連絡ください。

ホテレス義田
yoshida@ohtapub.co.jp

こころぎ(KOKOROGI) 店舗概要
象徴的な「炉」を空間の中央に据え、洗練された和モダン空間の中で富士山麓を中心とした地産食材を、伝統的な日本料理と原始的な炭火焼で味わう、新たなスタイルの創作和食レストラン。料理人の手捌きを間近で臨む臨場感、炭炉が魅せるライブ感、富士山麓の素材の美味しさを最大限に引き出す技術で、食事の本質を存分にお愉しみいただけます。
店舗名
日本料理「こころぎ(KOKOROGI)」
席数
80席 内カウンター12席 個室2部屋(6名/10名)
営業時間
ランチ 11:30~14:00(最終入店)
ディナー 17:30~20:00(最終入店)
事前予約制
レストラン予約:https://www.tablecheck.com/ja/shops/highlandresort-kokorogi/reserve

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