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第232 回 北村剛史 新しい視点「ホテルの価値」向上理論 〜ホテルのシステム思考〜 

第232 回『ラグジュアリーホテルとブランディング⑵』

【月刊HOTERES 2016年08月号】
2016年08月26日(金)
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弊社が顧客視点で開発を進めている品質認証基準においては、3 スタークラスを「アップスケールホテルと言われるカテゴリーに相当し、幅広いサービスや機能を提供し、おおむね細部に至るまで高いレベルで快適性、丁ていねい寧なサービスが提供されている宿泊施設」とし、4 スタークラスを「アッパーアップスケールホテルと言われるカテゴリーに相当し、おおむねハードウェア、ソフトウェアが調和しており、ステータス性もまた、高感じられ、レベルで機能性、快適性、顧客視点や顧客配慮が提供されている宿泊施設」、5 スタークラスを「ラグジュアリーホテルと言われるカテゴリーに相当し、意匠性や審美性にも優れ、顧客視点に基づく共感性を伴う積極的接遇が実践されており、ハイレベルな「おもてなし」が提供されているトップクラスの宿泊施設」と定義してします。もちろん価格戦略も重要ですが、価格を設定する前に、4 スタークラス以上のサービス提供をどのように実現できるかを考える必要があります。そのようなサービス提供を、明確なコンセプトをも背景にして実現できていれば、時間の経過に伴って、たとえハードウエアが劣化したとしても、サービスや人的接遇力の向上がブランディングの強化につながり、安定的かつ長期的な事業期間が期待できるようになるはずです。
 
 ブランドにはさまざまな「力」がありますが、その一つとして新規参入に対する防衛力があります。弊社の調査においても、約3 割の人は、好意を有するブランドがあると、その製品やサービスから、ほかの製品やサービスに容易には切り替えないという結果が得られています(全国の男女200 名に対するインターネット調査、2014 年)。また、仮にあるブランドが、そのブランド・コンセプトを進化させようとする場合、①既存ブランドのベースとなるコンセプトから大きく変化するか、②既存コンセプトを踏襲しつつ、進化することを望むのかに関して調査したこともあります(全国の男女200 名に対するインターネット調査、2014 年)。この調査では、ベースとなる基本コンセプトまでもが変化してもよいという人が全体の11.5%に過ぎず、約50%の人がベースとなる基本コンセプトを踏襲しつつ進化する方を望んでいました。このようにブランドには、ベースとなる基本コンセプトは容易には変化しない“重み”のような感覚が求められているのです。
 
 次いでラグジュアリーホテルの成立要件について考えてみましょう。まずロケーションですが、顧客のホテル体験はホテル到着前の動線から影響を与えていると考えるべきです。どのような発地であるかによって、到着時の顧客の感情が異なってしまい、求められるサービスレベルを統一することが困難となるからです。仮に日常空間に囲まれたようなロケーションであれば、そこから非日常感にリアリティーをも感じつつ一気に顧客の感情を切り替えるのは容易なことではありません。当然ホテルとしてのコンセプトに沿ったロケーションが求められることになります。ハードウエアについては、ホテルが用意しているコンセプトに沿ったデザインである必要があります。ここでデザインに関連し、デザイナーが関与、あるいはデザイン性の豊かな「デザインホテル」に対して実際どれほど顧客ニーズがあるのか調査した結果をご紹介します。以下のような質問を設けてアンケート調査を行ないました(全国の男女200名に対するインターネット調査、2014 年、弊社実施)。
 
デザインホテルと言われるホテル(例えばコンセプトを多く取り込み、表現されたホテル)があれば、泊まってみたいですか。
 
 その結果、ビジネスホテルでは「強くそう思う」から「ややそう思う」人の合計で全体の41.5%の人が泊まってみたいと答えています。シティホテルでは同54%、リゾートホテルでは同63.5%でした。デザイン性に対して、ビジネスホテル、シティホテル、リゾートホテルで総じて高いニーズが見込まれるほか、リゾートホテルでは特にデザイン性を求めている様子がうかがえます。それではさらにどのようなデザインが求められているのでしょう。これも以前にご紹介したものですが(同調査、2014 年)、「自然を取り入れたデザイン」に対して「強く興味がある」から「やや興味がある」と答えた人の合計割合が72%でした。人によってもちろん嗜好に個人差があり、求めるデザインもそれぞれ異なりますが、「自然を取り入れた」デザインに対しては、個別的な嗜好の差異が現れづらく、つまり万人受けしやすいようでした。コンセプトを十分に考慮したデザインが織り込まれ、かつ自然を取り入れたデザインが実現できれば高いハードウエア競争力を期待することができます。
 
 ハードウエアについて、最後に重要なのが、顧客目線です。所有、経営、運営が分離する場合には、所有者目線、経営者目線および運営者目線でそれぞれ求めるハードウエアの委細が異なるはずです。所有者目線であれば、できるだけ建設コストを抑えようと考えるはずです。また経営者目線であれば、経費コントロールがしやすい、あるいは動線がスムーズで効率性の高いハードウエアを望むでしょう。一方で運営者目線では、デザイン性とともに顧客視点から顧客満足度を最大限引き上げようとハードウエアをとらえようとするはずです。
 
 ラグジュアリークラスのホテルであれば、この運営者目線に沿ったハードウエアの質感を徹底的に重視すべきだと考えられます。新規開発する場合であれば、運営者目線を重視するチーム造りや関係者間の意思疎通が求められるほか、一度、運営者によりハードウエアを建設した後に、運営者が不動産を売却し、その後に自社が賃借人として経営を継続する方法(セールス・アンド・セールバック方式)も高い競争力を有するラグジュアリーホテルを開発する上で有効手法なのかもしれません。

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