ログイン
検索
  • TOP  > 
  • 記事一覧  > 
  • マスタークラス「日本酒の可能性とガストロノミーの未来」ー伝統と国際食文化の接点を探るー
マスタークラス「日本酒の可能性とガストロノミーの未来」ー伝統と国際食文化の接点を探るー

マスタークラス「日本酒の可能性とガストロノミーの未来」ー伝統と国際食文化の接点を探るー

2025年12月16日(火)
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

(左から順に)山梨銘醸株式会社 代表取締役社長 北原 対馬 氏,旬菜おぐら家 料理長 堀内 誠 氏,バレスホテル東京 フランス料理「エステール by アラン・デュカス」シェフ 小島 景 氏,アラン・デュカス 氏,デュカス・パリ エグゼクティブ シェフパティシエ アジア アリテア・ロシニョール 氏,フランス菓子·料理研究家 大森 由紀子 氏
(左から順に)山梨銘醸株式会社 代表取締役社長 北原 対馬 氏,旬菜おぐら家 料理長 堀内 誠 氏,バレスホテル東京 フランス料理「エステール by アラン・デュカス」シェフ 小島 景 氏,アラン・デュカス 氏,デュカス・パリ エグゼクティブ シェフパティシエ アジア アリテア・ロシニョール 氏,フランス菓子·料理研究家 大森 由紀子 氏


 2025年12月8日、服部栄養専門学校にて、山梨銘醸「七賢」とフランス料理界の巨匠アラン・デュカス氏によるマスタークラス「日本酒の可能性とガストロノミーの未来」が開催された。本企画は、日本酒の造り手と料理人が同じ視点で議論を交わし、日本酒と国際ガストロノミーの関係性を次世代へ共有することを目的に実施されたものである。
 
 山梨銘醸「七賢」とアラン・デュカス氏は、これまでも日仏間で協働を重ねてきた。2021年の 「アラン・デュカス スパークリング・サケ」、2023年の 「アラン・デュカス サステナブル・スピリッツ」 の共同開発を通じ、日本酒とフランス料理の新たな表現を模索してきた。2024年には世界7カ国を巡る取り組みを行い、国際的な場で日本酒の可能性を提示してきたが、2025年はその活動をさらに発展させ、パリ、ニューヨーク、マイアミ、東京、マカオの5都市で展開される「ワールドツアー2025」へと拡大する年に位置づけられている。
 
 今回のマスタークラスは、その国際プロジェクトの一環として実施され、日本酒と日本の食文化、フランス料理の技法を横断し、山梨の食材を軸にその可能性を探究する内容で、次世代の料理人が現場に通じる知見を得る機会となった。

 登壇者は、山梨銘醸株式会社 代表取締役社長 北原対馬氏、アラン・デュカス氏、旬菜おぐら家 料理長 堀内誠氏、パレスホテル東京 フランス料理「エステール by アラン・デュカス」シェフ 小島景氏、デュカス・パリ エグゼクティブ シェフパティシエ アジア アリテア・ロシニョール氏、フランス菓子・料理研究家 大森由紀子氏の6名である。それぞれが専門分野の立場から、日本酒と料理の可能性を示した。
 

白州の水を中心に据える酒造りと、味の設計をめぐる方向性

 

北原氏、デュカス氏による、マスタークラス開催の趣旨説明の様子
北原氏、デュカス氏による、マスタークラス開催の趣旨説明の様子

 
 はじめに、山梨銘醸の北原対馬氏が酒造りの基盤を説明した。同社は1750年に山梨県白州で創業し、275年にわたり酒造りを続けてきた。北原氏は、「原料米や設備の違い以上に、水質が酒の方向性を決める」と述べ、日本酒造りにおいて“水”を最も重視してきたと語った。白州の仕込み水は硬度約20mg/L の軟水で、発酵が穏やかに進む特性がある。麹歩合、温度帯、酵母の使い方などの判断はこの水質を起点に行われ、酒質設計の基準となっている。近年は麹づくりや発酵の設計を見直し、熟成に依存しない酒質の開発にも取り組んでいる。

 後半の質疑応答では海外市場の受容性について質問が寄せられ、北原氏は、「ワインが世界的に評価されている要因のひとつは酸度の高さにある」と指摘したうえで、「日本酒でも酸度の扱い方をどう設計するかが今後の課題になる」と説明した。麹由来の有機酸の引き出し方や温度帯との関係性など、味の構造を広げる検証が進められている。
 
 また国内消費が減少する一方で輸出量は増加しており、海外では日本酒を食中酒として扱うレストランも増えているとも述べ、北原氏は将来像として、「国内と海外の販売比率を50:50にしたい」と語り、国際市場を前提にした酒質設計の必要性を強調した。
 

料理人が拓く──一皿と一杯が交差する、日本酒ペアリングの新たな可能性

 

登壇のシェフたちによる、プレゼンの様子
登壇のシェフたちによる、プレゼンの様子

 

低温調理した鰊と真昆布、大浦ごぼうと長ナスを添えて(堀内 誠 シェフ)
低温調理した鰊と真昆布、大浦ごぼうと長ナスを添えて(堀内 誠 シェフ)

 和食の視点からは、旬菜おぐら家の堀内誠料理長が、ニシンと大浦ごぼうを使った調理デモを行った。低温で時間をかけて火を入れる工程や、日本酒を下処理に使う理由を説明し、素材の持ち味を引き出す手法を示した。ペアリングは、山梨銘醸の純米酒 「風凛美山」 で、米由来の旨みを基調とする酒質が、魚と根菜の組み合わせを支える設計となった。

銚子産一本釣りキンメダイ ポワロー海苔のコンディモン(小島 景 シェフ)
銚子産一本釣りキンメダイ ポワロー海苔のコンディモン(小島 景 シェフ)

 続いて、パレスホテル東京「エステール by アラン・デュカス」の小島景シェフが、持続可能な漁法に取り組む生産者との連携を紹介しながら、金目鯛とポワローネギを組み合わせた料理を披露した。香りの方向性や食材構成の整理を通じ、料理の設計意図を明確にし、料理側から見た日本酒との接点を示した。ペアリングは、アラン・デュカス氏と山梨銘醸が共同開発した「アラン・デュカス スパークリング サケ」で、貴醸酒技法と国産桜樽貯蔵による香味構造を料理と重ねる形で提示した。

栗と日本酒のデザート(アリテア・ロシニョール シェフ)
栗と日本酒のデザート(アリテア・ロシニョール シェフ)

 デザート領域では、デュカス・パリのアリテア・ロシニョール氏が、柑橘を基調とした菓子を紹介した。香りの立ち上がりや酸の扱いを解説し、デザートと酒の関係性を技術的に整理した。ペアリングは、酒粕を蒸溜して造る本格焼酎「アラン・デュカス サステナブル スピリッツ」で、樽由来の香味とデザートの構成を重ね、食後の一皿における日本酒の位置づけを示した。

文化の継承と国際的連携が生む、日本酒の新たな展開

 


 今回のマスタークラスでは、造り手と料理人が同じ視点で日本酒を語り合う場が形成された。製造技術、食材の扱い、提供手法といった異なる専門領域が交差することで、日本酒が食文化の中でどのような価値を担いうるかが具体的に示されたといえる。
日本酒を取り巻く環境は国内外で変化しているが、造り手と料理人の協働が進むことで、レストランでの扱われ方や酒造側の設計思想はさらに広がり、新しい提供価値が形成されていくといえる。

 

【提供酒紹介】

■ 純米 風凛美山
米の旨みを基調とした辛口の純米酒。冷酒、常温、ぬる燗など多様な温度帯に対応し、幅広い料理と組み合わせられる。
 
■ アラン・デュカス スパークリング サケ(スパークリング日本酒)
七賢の貴醸酒技法と国産桜樽での貯蔵を組み合わせたスパークリング日本酒。野イチゴ、アニス、ヨーグルトを思わせる香りが立ち上がる。
 
■ アラン・デュカス サステナブル スピリッツ(本格焼酎)
アラン・デュカス氏との共同開発により、酒粕を蒸溜して造られた本格焼酎。七賢の吟醸香の特徴とウイスキー樽熟成由来の丸みを持つ香味構造を組み合わせている。
 

プロフィール紹介

■ 山梨銘醸「七賢」
 
— 白州の水を基点にした275年の酒造り
 1750年、初代・北原伊兵衛が白州の銘水に出会い創業。山梨県北杜市白州で、甲斐駒ヶ岳の雪解け水と地元産米を用いた酒造りを続ける。1880年には明治天皇の巡幸時に行在所に指定された蔵として知られる。
 
 代表銘柄は「七賢」。近年はスパークリング日本酒や長期熟成酒にも取り組み、国内外で評価を獲得。現在は13代目・北原対馬氏が蔵元を務め、白州の自然と水を軸に、伝統と革新を融合した持続可能な酒造りを推進している。
 
■ アラン・デュカス氏
— 世界を舞台に食文化の未来を拓く料理界の巨匠
 
 フランス南西部ランド地方出身。ビストロから三つ星店まで、世界9カ国で約30のレストランを統括する国際的シェフ。レ・コレクションヌール、デュカス・エディション、料理学校 デュカス・エデュカシオン(現 Sommet Education と提携)を設立し、知識と技術の継承に取り組む。
 
 また、カカオ工房「ル・ショコラ・アラン・デュカス」、コーヒー工房「ル・カフェ・アラン・デュカス」を展開。生産者支援と環境配慮を理念に掲げ、「コレージュ・キュリネール」を創設するなど、食文化の持続的発展に寄与している。
ーーー
取材・文:オータパブリケイションズ 松島
Mail:matsushima@ohtapub.co.jp

月刊HOTERES[ホテレス]最新号
2025年12月15日号
2025年12月15日号
本体6,600円(税込)
【特集】本誌独自調査 全国ホテルオープン情報
【TOP RUNNER】
東京ステーションホテル(日本ホテル(株))常務取締役 総支配…

■業界人必読ニュース

■アクセスランキング

  • 昨日
  • 1週間
  • 1ヶ月
CLOSE