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外食産業の「声」を政策へ──食団連、食産業庁構想とデータ基盤整備で次の段階へ

外食産業の「声」を政策へ──食団連、食産業庁構想とデータ基盤整備で次の段階へ

2025年12月25日(木)
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 一般社団法人日本飲食団体連合会(以下、食団連)は2025年12月17日、東京都内で「第1回メディア懇談会」を東京都内で開催した。コロナ禍を契機に誕生した同団体は、外食産業全体を横断する政策窓口として活動を続けてきたが、今回の懇談会では、設立から現在に至る経緯を振り返るとともに、中長期的なビジョンとして掲げる「食産業庁」構想や、業界データの集約・可視化に向けた具体的な方向性を示した。
 
 外食産業を取り巻く環境は、コロナ禍を経て大きく変化している。感染症対応という非常事態は収束に向かいつつある一方で、原材料価格の高騰、人手不足、建築費の上昇など、構造的な課題が複合的に顕在化している。そうした中で、外食産業をどのように位置づけ、どのような政策のもとで支えていくのかが、改めて問われている。

 

コロナ禍で浮き彫りになった「産業の不在」

 

(写真)一般社団法人日本飲食団体連合会 代表理事 佐藤裕久氏
(写真)一般社団法人日本飲食団体連合会 代表理事 佐藤裕久氏

 一般社団法人日本飲食団体連合会 代表理事の佐藤裕久氏は、団体設立の背景について説明した。
 
 「外食産業には、小規模店から高級店までを横断し、産業全体の声として政治や行政に届ける組織が存在していなかった」
 
 コロナ禍では、営業時間短縮や休業要請、各種給付金・補助金制度が相次いで打ち出されたが、その制度設計は必ずしも現場の実態と一致していたとは言い切れない。佐藤氏は「事業規模や業態による違いが十分に反映されず、現場に戸惑いが生じたケースも少なくなかった」と振り返る。
 
 こうした経験を通じて浮き彫りになったのが、「外食産業としての代表性を持つ窓口の不在」だった。職団連は、その課題意識を共有する業界関係者によって設立され、外食産業全体を俯瞰しながら政策提言を行う組織として活動を開始した。

「守る」産業から「育てる」産業へ

 コロナ禍対応を通じて一定の役割を果たした後、食団連では団体の存続を含めた議論が行われたという。佐藤氏はその経緯について、次のように語る。
 
 「外食産業の未来を考えたとき、待ち受ける環境は決して平坦ではありません。食材価格、建築費、人件費の上昇など、構造的な課題は今後も続いていきます」
 
 一方で、外食産業は日本の食文化を支え、雇用を生み、インバウンド需要の受け皿ともなる重要な存在だ。佐藤氏は「単に困ったときに守る対象ではなく、日本経済や文化を支える基幹産業として位置づけ、計画的に育てていく視点が必要だ」と強調する。

 現在、食団連のネットワークは約8万店舗に及び、従事者数は累計で100万人を超える規模に広がっている。こうした規模感を踏まえ、「産業としての実態を可視化し、社会に示していくことが重要になる」と語った。

 

食産業庁構想と省庁横断の政策連携


 団連が中長期的な目標として掲げているのが「食産業庁」構想だ。佐藤氏は、外食産業が農林水産、経済産業、厚生労働、観光など、複数の行政分野と密接に関わっている点を指摘する。
 
 「食は文化であり、観光であり、産業です。現状では、省庁ごとに議論が分断されがちですが、横断的に整理し、科学的に検証する仕組みが必要だと考えています」
 
 同構想は、単なる新組織の設立を意味するものではなく、データとエビデンスに基づいた政策立案を可能にする枠組みづくりを目指すものだ。食団連では、その基盤づくりとして、業界データの整備に力を入れていく考えを示した。

 

業界データの可視化と「業界ダッシュボード」

 

(写真)一般社団法人日本飲食団体連合会 専務理事 高橋英樹氏
(写真)一般社団法人日本飲食団体連合会 専務理事 高橋英樹氏

 質疑応答では、外食産業を巡るデータの不統一についても議論が及んだ。これについて、一般社団法人日本飲食団体連合会 専務理事の高橋英樹氏が説明した。
 
 「外食産業の市場規模は、24兆円、31兆円、35兆円と、発表主体によって大きく異なります。これだけ数字が違えば、政策議論の前提自体が揺らいでしまいます」
 
 食団連では、POSデータやキャッシュレス決済データなど、民間が保有するデータを活用し、可能な限りN数を確保したうえで、実態に近い指標を導き出す「業界ダッシュボード」の構築を検討している。個店単位ではなく、地域別・業態別に集約することで、事業者の匿名性を確保しながら、産業全体の動向を把握できる仕組みを想定している。
 
 高橋氏は「まずは事実をそろえることが、政策議論のスタート地点になる」と語った。

働き方改革と技能継承の両立

 
 人材に関する課題も、懇談会の重要なテーマの一つとなった。高橋氏は、外食産業における働き方改革の難しさについて言及する。
 
 「調理や接客は、実務と教育を切り分けにくい仕事です。労働時間の適正化と、技能習得や人材育成をどう両立させるかが課題になります」
 
 食団連では、有識者を交えた部会を設置し、カリキュラム設計や評価制度のあり方について検討を進めている。2026年以降は、省庁とのラウンドテーブル開催も視野に入れ、現場実態を踏まえた制度設計につなげていく考えだ。

 

メディアへの期待と産業イメージの転換


  メディアへの期待について、高橋氏は次のように述べた。

 「外食産業は、真面目に取り組んでいる事業者が多い産業です。数字や事実を丁寧に伝えることで、社会的な理解を広げていきたい」
 
 課題を隠すのではなく、実態を開示したうえで議論を深めていくことが、産業としての信頼性向上につながるという考えだ。
 
 懇談会の最後に、食団連は、外食産業を「単なる民間ビジネスではなく、日本の文化経済を支える基幹産業」と位置づけ、データ整備と政策提言を両輪に活動を進めていく方針を改めて示した。

食団連:ホームページ

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文・オータパブリケイションズ 松島
Mail:matsushima@ohtapub.co.jp

 

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