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第211 回 北村剛史 新しい視点 「ホテルの価値」向上理論 〜ホテルのシステム思考〜 

第211 回 『ホテル運営戦略立案とホテル鑑定評価』

【月刊HOTERES 2016年03月号】
2016年03月18日(金)
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 収益還元法の適用に焦点を絞ってその手続きを整理しますと、⑴対象ホテルの所在するマーケットにおける顧客層や季節性等のマーケット特性の把握、および対象ホテルの建物の施設構成、管理状況の把握、⑵対象ホテルのブランドメッセージやブランドコンセプトの把握(不明確な場合にはそれらの検討)、⑶現状の施設が有効に使用されているか、使用されていない場合には、通常の運営で見込まれる最高最善の使用方法(特殊な使用方法等は考慮しない)を検討(最有効使用の判定)、⑷最適なサービスが提供されているか、提供されていない場合にはどのようなサービスがあり得るのかを検討(運営上の最有効運営の判定)、⑸組織構成や現場スタッフのサービスレベルの把握、⑹適したマーケティング、宣伝広告がなされているかの確認、⑺以上の検討結果に基づきさまざまなシナリオを用意すると同時に、シナリオごとの将来収支フォーキャストを作成、⑻各シナリオの実現可能性の検討(物理的実現可能性、法律的実現可能性等のさまざまな観点から各シナリオをチェック)およびシナリオごとの実現化リスクの高低を判定し期待利回りとして割引率に考慮して将来収支を現在価値に還元しシナリオごとの収益価値を査定、⑼求められた収益価値を分析検討の結果、最終的な収益価格を決定します(これら手続きは通常のホテル価値の把握を目的とする場合を前提としており、不動産の流動化や担保不動産の評価を目的とする場合は現況所与による施設利用や運営状況を前提とします)。
 
 以下具体的に前記手続きを見てみましょう。まず⑴のマーケット特性に照らして、対象ホテルの有するロケーションの魅力、地域の文化性、顧客を集客する魅力の有無や、眺望や景観、その他個別的な立地特性、さらには対象ホテルの開発された経緯や歴史的文脈に鑑み、望ましい顧客に対するブランドメッセージを検討します。次いで、当該ブランディング・プラン(ブランドメッセージやブランドコンセプト、タグライン)に対応する施設構成や施設利用となっているか、不足機能がないか、客室構成は妥当であるのか等を確認、検討することになります。すでに明確なブランディングがなされている場合であれば、そのブランドメッセージやブランドコンセプトが当該マーケット特性や立地特性などと合致しているのかを検討します。サービス内容の充実度や良しあし、顧客接遇レベルについては、ブランディング・プランや施設利用に関する判定の後に、それらに沿うサービス内容やサービスレベルなどとなっているかを検討します。
 
 サービス内容やスタッフ接遇力の向上には、さまざまな内容、方法や視点があります。それら多くの戦略案に対し、「ブランディング・プラン」というフィルターをかけて絞り込む必要があります。例えば、ハードウエア、ソフトウエア(サービス内容)、ヒューマンウエア(スタッフ接遇力)との関係については、その競争力のバランスとして「ハードウエア>ソフトウエア>ヒューマンウエア」となっているケースを多く見受けます。そのような場合であれば、ブランディング・プランに基づき、あるべき施設利用を検討した後に当該プランに沿ったサービスメニューやスタッフ接遇場面を検討するのです。すべての検討の後に、モデルとなるような運営事例などを参考としつつ、それら施策が仮にうまくいった場合に想定される改善収支を作成します。もしここで人員補充や施設改装工事が必要と判断すれば、初期投資額としてそれら必要投資額を初年度収支に費用として計上します。逆に「ソフトウエア>ヒューマンウエア>ハードウエア」というような場合であれば、ソフトウエアやヒューマンウエアの競争力を生かすために必要なハードウエアのリニューアル工事を検討することになります。
 
 ここでもう一点、当該3 要素のバランスが悪いケースでは、自ずとGOP 比率が悪化する傾向が見られることに留意が必要です。「客層」と「高い顧客配慮」が、「顧客満足度」に強く影響しています。当該3 要素が「ブランディング・プラン」による手綱によって足並みがそろっている場合には、より強くブランドコンセプトやメッセージを顧客に伝えることができるため、顧客はホテル内に一定の「客層」を感じやすくなります。その結果、ホテルに対する満足度を引き上げることにつながり、何らかの形で客室稼働率やADR に中長期的に影響を与えるのです。一方で経費面では、上記3 要素がアンバランスということは、いずれかが秀でているとも言えます。そのような場合は、上記のように十分な収益性が達成しづらい環境にありつつ、当該秀でた要素に対する支出額が高額化するため、経費率を悪化させることにもつながるのです。
 
 ホテル鑑定評価では、このように、想定されるシナリオを複数検討した結果、求められた各シナリオの収支フォーキャストを、それぞれのシナリオが有する実現化に伴うリスクや必要となる新規投下資本や経費変化をも考慮した上で、資本価値に還元し、その優劣を探るという手続きを行ないます。つまりホテルの鑑定評価、ホテルのポテンシャルバリューを見極める視点とは、現状のマーケット環境、施設の利用状況は管理状況、競争力の高さ、サービス内容や顧客接遇レベルすべてを考慮した上で、最高最善の使用方法を定量的に模索することにつながっているのです。
 
 ホテル売買市場では、単に現状収支にのみ依拠してその市場価値を推し量っている訳ではありません。高額な投資額を検討することから、チャンスがあれば、投下資本以上の価値を実現させようと、上記のようにマーケット環境からはじまる、さまざまなホテルを取り巻く要素間の力学に対して慎重な検討を重ねて運営戦略を見つめなおしてその結果である潜在的価値を把握しつつ最終的な投資額を決定しています。ホテルの鑑定評価が求められる場面とは、ホテルが売買される場面において銀行機関からの依頼等が大半を占めていますが、ホテル運営側から見れば、ホテルの鑑定評価には上記のような利用価値もあるのです。

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