「FBI AWAJI」の海辺に設営されたBBQスペース。 “地の利とキャンプを楽しむ”の掛け算から絶妙な引き算をする点が行氏プロデュースの魅力であり、センスだ
ここ数年、ソロキャンプやキャンプ飯など、“キャンプ”という言葉を耳にすることが増えている。グラマラスとキャンピングを合わせた造語である“グランピング”という言葉も一般的に認知されるようになった。コロナ禍になってからは、各地のキャンプ場はかつてない人気を誇るようになっている。そんな中、日本中のキャンパーが“大人の秘密基地”として憧れるグランピング施設が淡路と大山にある。「FBI AWAJI」「 FBI DAISEN」だ。そこで今回は施設プロデュースにおけるエンタメ性についての見解を、FB㈱バックロードアンドザムーン代表取締役の行淳弥氏にお話を伺った。
取材・本誌 毛利愼 文 飯野耀子
㈱バックロードアンドザムーン 代表取締役 行 淳弥氏
◇自分が行きたいところを作りたい
もともとグラフィックデザインや編集プロダクション、大阪名物くいだおれ太郎に関する企画事業などを手掛けている行氏。その行氏がなぜ、グランピング施設というまったく異業種の事業を手掛けるようになったのか? まずはその点について伺った。「もともと父がアウトドア好きで、キャンプも数日から一週間かけて川原沿いでするような家庭だったので、子供の頃からキャンプが大好きなんです。大人になり、バックパッカーとしていろんな国を回っていた時期があるのですが、グランピングという名前がまだない時分に、自然の中にバンガローがあったり、バーがあったりというキャンプ場を目にし、日本にはこういう施設がないなと思っていました。その中で、もともと個人的によく遊びにいっていた淡路のキャンプ場(※現『FBI AWAJI』)があったのですが、友人から“いい土地があるから見にいかないか?” という声がけで見にいった先がそのキャンプ場でした。ご当主が亡くなりしばらく閉められていたのですが、奥様が土地を譲ってくださることになり、そんなことからキャンプ場を運営することになりました。ただ最初はグランピングを作ろうと思っていたわけではないんです。キャビンやレストランバーなど海外での知見に自分なりのデザインを加えて、“自分だったらこんなキャンプ場に行きたいな”という要素をいろいろと取り入れながら施設を作っていたところ、日本でもグランピングという言葉がメディアに出だし、どんなものだろう? と見てみたら自分がやっていることだったという(笑)
昨今はグランピングという言葉も一般的になり、空間プロデュースの形容詞としても使われたりしています。個人的にはそれがビルの屋上に作られた“風”のものでも楽しければいいかなとも思います。が、われわれの考える“グランピング”にはあくまでも“キャンプと自然”が主役であるということが基軸としてあります。それをより楽しむための要素としてキャビンがあったり、その横で焚火ができたり、アウトドアリビングや景色を楽しみながら入れるお風呂がある。ですから常に、“自然の中をいかに楽しめるか?” を大切に施設をブラッシュアップしていっています」。
◇未知の世界を経験できること、それがFBIの提案するエンタメ
ところで行氏はエンタメというものをどう考えているのだろうか? 「芸能であれ、遊びであれ、レジャーであれ、“人が楽しむ何か”がエンタメではないでしょうか? そういった面から私がエンタメ性を提案するときに大事にしていることは、相手の人が経験していないことを経験させてあげたいという視点です。例えばキャンプの食事というとBBQが定番ですが、2泊、3泊されるお客さまもいらっしゃるので、そうなると毎日BBQだったらちょっと飽きますよね。そこでたこ焼きセットを用意したり、冬場は蟹や鍋のコースを提供してみたり。最近はこたつを設置したキャビンも作りました。これらの根底にあるのは“お客さまの1泊をどれだけ思い出深いものにできるのか?” ということです。“新しい経験”は、それを彩る重要な要素として企画する際に必ず視野にいれて考えを巡らせています」。
エキサイティングなファイアーパフォーマンス。エンタメ性豊かなアクティビティもFBIに赴く楽しみのひとつだ
◇ロケーションが発想を刺激する
ところで、現在、さまざまな自治体やディベロッパーからプロデュース依頼があるという行氏。今後、どういったものを作り、どういった場所でプロデュースを行ないたいのだろうか? 「まずどういったものを? というのはある意味、“ゼロベース”というのが答えになります。なぜかというと、アイディアはロケーションありきで生まれてくるので、場所の特性によって変わってきます。例えば使用するテントや家具、食器が同じものだったとしても、その使い方や活かし方はその場所、その場所に合ったものがありますし、お客さまにとっても見え方や感じ方の違いが生まれてくるでしょう。一例をあげると、大山の施設にプールがあるのですが、屋外なので冬場は使われていませんでした。でも、遊ばせておくのももったいないなと、何か利用方法なないだろうか? と考えた際に、横にサウナを作って、これを水風呂として活用すればいいのではないかと閃いたんです。そこでさっそくプールサイドにテントサウナを設置したところ、お客さまにも喜んでいただけ、私たちも冬場にプールを稼働させ得る新サービスが生まれました。
ちなみに私の中には、“これを作りたいからこういった場所が欲しい”という概念が、今のところはですが(笑)、ないんです。ですから、お声がけいただいた際はまず、その場所に足を運びます。そこで自ずとイメージが湧いてきた場合には、お話を次の段階に進めさせていただき、諸条件が整うようであれば実装へと進みます。選り好みをするわけではなく、先述したように“イメージありき”でロケハンに行くタイプではないので、イメージが湧いてこない場所だと面白いものが作れないと思うんです。逆に見た瞬間にさまざまな発想が生まれてくる場所に出会えた時はワクワクします。日本にはそういった素敵な田舎がたくさんあるので、どこでやりたいか? という質問の答えは田舎になります。その場合には施設を作るのももちろんありですが、古民家の再生や現地の良さを残した上でのインフラ整備、雇用の創生や移住者と現住者のハブとなるような働きかけなど、地域との共生につながるプロデュースができたらいいなと考えていますし、そういった取り組みを今後は増やしていければと思っています」。
FBI
https://fbi-camping.com/
担当:毛利愼 mohri@ohtapub.co.jp