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  • 経営者インタビュー オンリーワンの宿づくり 「里山十帖」 自遊人 代表取締役 岩佐十良氏
新連載 経営者インタビュー オンリーワンの宿づくり 「里山十帖」 

自遊人 代表取締役 岩佐十良氏 × 旅館総合研究所 所長 重松 正弥

【月刊HOTERES 2015年11月号】
2015年11月06日(金)
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チーフ・フードクリエイターは京都の料亭「吉泉」で修業した北崎裕氏。金沢の自身の店を閉めてまでして、里山十帖に入社した
薪ストーブには、ベルギー製の「ネスターマーティン」 を採用

中途半端な拍手ではなく拍手喝采をねらう
 
❏では、三つめのS、マーケティングの取り組みについて教えてください。
 
 里山十帖の滞在を観劇に例えて説明します。来られた方が満足されて、拍手を送ってくれるとします。私たちが目指すのは、中途半端な拍手ではないのです。
 
「サイコー!」と拍手喝采していただくことです。現在では、20 ~ 30%の方が拍手喝采してくださいます。その方たちは、きっとリピーターになります。それだけではなく、その方たちの輪が広がります。「良かった」ではなく、「サイコー!」と思ってくだされば、同じ感性を持った友人にそのことを伝え、その友人が来てくださいます。来てくださった友人が「サイコー!」と思えば、さらにまたその輪が広がります。私たちは、そんな狭い中で商売をしようと思っているのです。
 
 またスタッフは、お客さまから褒められると「自分は間違っていない」と思えるのです。共感の輪を広げていくこと、それを私は「共感マーケティング」と呼んでいます。
 
❏ファンになったお客さまから、「宿泊したくても予約が取れない」というお叱りがあるかと思いますが、どうでしょうか。
 
 現在、年末年始はすでに満室ですので、やはりその時期の予約を取ろうとして驚くお客さまはいます。ただ、基本的に1 年後まで宿泊予約できるようにしています。そうすると、ゴールデンウィークに宿泊したお客さまが、帰り際に来年のゴールデンウィークの宿泊予約をされたりします。
 
 このような課題に対しては二つの対策があります。一つは、年末年始に宿泊を希望されるお客さまに対して、ゴールデンウィークの予約の提案をします。ただし、予約が先であればあるほどキャンセル率は高まりますが。同じような考え方で、週末の予約がいっぱいであれば、平日に休めるかどうかを確認したうえで、平日をお勧めます。もう一つは、「キャンセルが出たら教えてほしい」と希望するリピーターのお客さまからご要望を聞き、キャンセルが出たときにスタッフから連絡をしています。
 
 最近は、リピーターのお客さまは繁忙期をあえてはずして平日に来られるようになり、繁忙期に初来館のお客さまの割合が多くなっています。長期滞在のお客さまは別荘感覚で利用される方もいます。
 
❏海外の方を招くという考えはありますか。
 
 特にそのための宣伝はしてはいませんが、海外の方も増えてきています。昨年は何も宣伝していませんでしたが、2 月には1日に必ず1 組は海外の方がいました。海外の方でもこの宿を気に入ってくださる方のみ来ていただければと思います。
 
 海外の方に口コミ以外で広げていないのには理由があります。それは、海外のお客さまの中には、「連泊はするけれど、食事は外でする」お客さまが多いのです。そのため単価が落ちてしまうのです。3 ツ星のオーベルジュに宿泊して、そこのレストランで食事をしない人はいないでしょう。里山十帖も、戦略としてそのような地位まで持っていけたらと考えています。
 
❏最後のS、オペレーションの工夫はどのようなことをされていますか。
 
 当初、清掃まですべて社員がマルチタスクで行なっていましたが、現在は清掃を中心にパートも雇っています。チェックアウトの11 時30 分からチェックインの14 時30 分という短時間にスタッフが集中して清掃をすることは、可能ですが相当疲れてしまうのです。結果、フレッシュな気持ちでお客さまに対応することができなかったのです。一部の社員は引き続き清掃に入っていますが、その時間に別の仕事、例えば宿帳のチェックなどをするようになりました。労力を分散していることにより、社員の疲れが軽減され表情も変わりチェックインに来たお客さまを迎える余裕ができ、アンケートにも確実に変わったというコメントがありました。
 
 現場では、お客さま情報などを共有するミーティングは毎日行なっています。チェックアウト後の反省会など、お客さまのアンケートも踏まえてのミーティングは毎週一回、私も参加し行なっています。細かいオペレーションに関しては見ていませんが、パートさんのオペレーション単価などは見ています。今日何人パートさんが出勤し、一室につきどれぐらいの清掃単価がかかっているかを見ます。それに対して思っていることがあっても言わないようにしています。それは、社員の給料は業務の効率化によってしか上がりませんと伝えていますし、彼らも分かっているので私はあえて言いません。マネージャーや社員の会議はありますが、その際は伝えることもあります。オペレーションにおいて、これはできないというのは言わないで、できるように考えなさいとは伝えています。


里山十帖のメインディッシュは、極上の魚沼産コシヒカリの「ごちそうごはん」。お客さまの目の前で土鍋で炊き上げ、炊き上がったばかりの煮えばなと、さらに村仕上がったご飯を二度に分けて味わわせてくれる

コンサルタントの視点
社長のこだわりが多くの人の心をとらえている
 
 里山十帖は、旅館でもホテルでもなく、岩佐監督の作る「劇場」です。
 劇場の成功ポイントは、「演目」であり「役者」です。里山十帖の演目とは、ここで提案する「さとやまから始まる十の物語」であり、役者とはスタッフです。
 
 まず、【スタッフ】に関しては、多くの旅館が「お客さまが主役」という建前を持っています。多くの旅館が「いつ辞めるか分からない社員を前面に出せない」という不安を抱え、スタッフは黒子というスタンスです。けれども、ここ里山十帖では、「スタッフは役者」と言い切っています。ディズニーランドがスタッフを「キャスト」と呼ぶのと同じ考え方です。結果、スタッフはモチベーション高く、生き生きと接客し、一生懸命お客さまを喜ばせようとするのです。
 
 【お客さま】については、「とにかく良いものを作り続け、その良さを伝えたい」という思いが館内にあふれています。また、クチコミへの返信作業は、舞台監督である岩佐さん自身が行なっています。お客さまに真摯に向き合う姿勢があります。かといって、お客さまの要望をすべて受け入れるわけでもないのです。岩佐さんは、基本的に職人気質です。職人だからこそ、商品はプロダクトアウトです。FFE などは、すべて岩佐さんの嗜好でそろえています。一言で言って、すべてがカッコ良いのです。いままで、少し時代遅れが多かった旅館業界で、このセンスは、ずば抜けています。時代の先端を行っています。ただし、それは決して度が過ぎた奇抜なものではありません。「自分たちが良いと思うもの、心地良いもの」、そして来館されたお客さまが「欲しい。自分のライフスタイルに取り入れたいな」と思うものを扱っています。これこそ、雑誌編集という世界で岩佐さんが培ってきた経験のたまものだと思います。
 
 【オペレーション】に関しては、多くの旅館で自分たちの都合ばかりを考えたスタイルがほとんどです。しかし、里山十帖は違います。「お客さまに、最上を提供したいために考えられたオペレーションなのです。その最たるものが、夕食時間。「17:30 から」と「19:45 から」の二本です。これは、同じ時間帯にお客さまが、かぶらないようにする配慮です。決して「宿の都合の押し付け」ではないのです。最高の食事を提供するためには、調理人もサービススタッフも、その一組のお客さまに注力すべき、という岩佐さんのこだわりなのです。
 
 里山十帖という劇場。ここに、活力を吹き込み続けられるかどうか。これこそが里山十帖の成功のポイントだと思います。世の中には「変わらない事がいい」という価値観もありますが、同じ演目を何度も見たいという人は稀です。「変わり続けること」こそが、成功し続けるポイントではないでしょうか。
 
 岩佐さんには、その自信は充分にあると感じました。

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