里山十帖は、2014 年5 月に開業した。そのたった3 カ月後には、客室稼働率は90%を超えた
倒産や廃業で軒数が減り続ける旅館業界。そんな厳しい環境にあっても、きらりと輝く個性を持ち、真っ当な経営を行なっている宿がある。観光資源に恵まれ、特有の文化が色濃く、そして多彩に広がる日本において、独自性を磨き、お客さまを魅了する珠玉の宿。われわれは、そんな宿を伝えたい。そして、日本独自の宿の在り方、宿泊ビジネスの在り方を模索し、世界や後世に伝えたい。本連載は、旅館総合研究所の重松所長が、自身の目で優れた宿を厳選し、取材し、写真と文章で紹介する連載企画。第一回は、これぞオンリーワンの宿、新潟県の南に位置する大沢山温泉にある里山十帖のクリエイティブ・ディレクターである岩佐十良氏のインタビューを紹介する。
企画・構成 本誌 丸山和彦
❏私は旅館の経営を見るとき、「4 つのS」という枠組みで捉えるようにしています。「4 つのS」とは、ES( 社員満足)、CS(顧客満足)、MS(マーケティング&セールス)、OS(オペレーション・システム)の4 つです。この4 つがしっかり機能しているかどうかが、健全経営の秘訣だと考えているからです。ですので、このインタビューも、この4 つを順番にお尋ねできればと思っています。まずは、ES、社員満足にどのように取り組まれているかからお聞かせください。
「里山十帖」は、形態として、「宿」という形をとっていますが、宿ではなく「1泊2 日の滞在を通して何かを体験・発見・感動していただく場所」として考えています。体験・発見・感動をしていただくためには必ず、人が媒介しないとできません。例えば、料理で考えますとフードクリエイター(料理人)が料理を作り、その料理をプレゼンテイター(サービス)がどのようにプレゼンするかを考えます。そのため、里山十帖にとって一番大切なのは、「人」になります。スタッフは、黒子ではないのです。人前にでることが必然であり、それがモチベーションになっています。
旅館やホテルですと、主役はお客さまでスタッフが黒子でありたいという考えが一般ですが、ここはそれがまったく逆なのです。主役は里山十帖で、体験し、なにかを感じに来ている観客がお客さまになります。そのための舞台装置、料理、スタッフのプレゼンテイターやクリエイターがいます。
プレゼンテイターがどのようにプレゼンテーションするかによって、お客さまの満足度は変わってきます。プレゼンテーションが上手くできなければ、お客さまの満足度は70%かもしれないし、上手くできればクリエイターの想いが100%お客さまに伝わります。そのような意味でも、彼らはとても重要な存在であり、演劇の舞台でたとえると彼らは役者です。
社長は監督です。ですので、口コミサイトなどのお客さまの声には、私が返信しています。なぜなら、お客さまは、役者に言いたいのではなく監督である私に意見を伝えたいと思っているからです。